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カレンの日記  作者: ROM太郎
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4月5日、火曜日。初めまして。

 日記を買った。入学祝いで貰ったお金。貰うのはいいが、それを貯金していつかのためのファンデーションやカーディガンなどに消えていくのは、お金をくれた人になんだか申し訳ない。では、正しい使い方は何だろうと考えた。

 ……寄付?いやいや、それはお金を送ってくれた人に失礼だろう。私の成長を祝うお金なのだ。私のために使うべき、と考えれば、貰ったお金でショートスウェットやアイシャドウを買ってもいいのかもしれない。

 でも、なんだか申し訳ない。例えば私が大人になって、友人の子供が高校に入学したとする。果てしないけど、したとする。それで自分が汗水たらして稼いだお金をお祝いだと言って、ピンク色のお祝儀袋に入れて渡したとする。後日そのお子さんに会って、全身をハイブランドで固めていたら、イラッとする。拳が出ちゃうかもしれない。女の子なのに。その時にはおばさんになっているか。おばさんなら拳が出てもいいかな。ダメか。むしろダメか。傷害事件か。執行猶予は付くかなぁ。付くだろう。そういえば中国の執行猶予は日本のものと違うらしい。ユーチューブはなんでも教えてくれる。ユーチューバーは何でもは教えてくれないけれど。何の話だ。つまり、殴られたくないのだ。お金を送ってくれた人を、失望させるような使い方をしたくないのだ。では感動させるような使い方はなんだろう。

 ……食費?たぶん、感動っていうか同情する。念のため書いておくと、私が連想しているのはフルーツサンドやマリトッツォではない。米と味噌だ。うん。同情、する。しかし、私の家は貧困の危機に瀕していない。むしろお金持ちと言っていいだろう。そのため、米と味噌を買ったと言ったら、むしろ怒られてしまうかもしれない。色んな意味で。

 我が家は、小高い丘の上に建っていて、三台分の車用ガレージが付いた一軒家。もちろん親の所有。父親の仕事は有名アーティスト、の専属レコーディングエンジニア。仕事の実態は分からない。私がそれをお父さんに聞くと、EDがどうとかコンパがどうとかゲイがなんとか難しい(調べてみると、EQやコンプやゲインと言っていたらしい。知らない言葉が増えただけで、謎が謎のままだ)ことを言って、私がぽかーんとしているのを見た母が、流ちょうな英語で父を止めるのだ。

 そんな母はアイルランド人。綺麗で凛としている自慢のお母さんだ。何もない時はクールな表情がかっこいいが、行動や言動は愛情たっぷりで、ちょっとしたことで笑うギャップが可愛らしい。と娘ながらに思う。この人を選んだお父さんの気持ちはよくわかるが、お母さんの気持ちは全然分からない。

 もじゃもじゃ頭でメガネをかけて、いつも地下室のでっかいパソコンに向かっている冴えないひきこもりのお父さん。顔はそんなに悪くないけれど、平均より0.2点ぐらい高いという程度だろう。優しいし気遣いもできるけど、そもそも鈍感で察しが悪い。今じゃねぇというときに優しくするし、気遣いしてほしい時にはそれに気づかない。

 これはよくない。肉親をそんなに悪く言うこともないだろう。お父さんが、そのレコーディングエンジニアじゃなかったら、入学祝を本当に食費に使うことになっていたかも知れないし、何に使うか考える自由を与えてくれたお父さんには、やはり感謝するべきだろう。


 本題、結果として日記を買った。国語は好きだし、今後の人生、何かのためになると思ったのだ。自分の将来のため、何かに役に立つと思えば罪悪感も無い。もちろん、これで入学祝を使い切るはずもない。余ったお金でフルーツサンドやマリトッツォを食べるのだ。明日から始まる花の女子高生生活。咲く花に添えられたフルーツサンド。なんとも、美味そう。

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