9.形だけでも処刑はしておく
1.グランメルト火山・処刑場
私は檻に入れて運ばれていた。
オリハルコンの檻である。
隙間から抜け出せるだろと思われているだろうがオリハルコンを触媒に百二十八重の封印魔法陣が重ねがけされており触手の一本たりとも外には出せない。
攻城用ゴーレムが私の入った檻を運ぶ。
その後ろには見せ付けるかのような巨石を担いだゴーレムが続く。
隊列には千人単位の魔法使いたち。
火口に到着した。
「それでは……元帥の処刑を執り行う」
イフリートくんは明らかに乗り気では無かった。
こんな事で私が殺せるなら誰も苦労はしないし無駄にヘイトを買う。損な役回りだ。
誰だってやりたくないし、唯一やりたがるし、なんならこの処刑の発案者である筈の宰相くんは至近距離で私の自爆に巻き込まれて入院している為参加出来なかった。
私の入った檻は活火山へと投げ入れられた。
ゴーレムが冗談のような大きさの岩石で蓋をして、魔法使い達が儀式魔法を発動。火山は噴火した。
嫌がらせにしても手が込みすぎだろ。
2.魔王城・アイリスの自室
酷い目にあったわ。
噴火のダメージ自体は皆無だったが檻が溶岩で溶けるまで脱出が出来ずに一週間も狭い檻の中に閉じ込められながら溶岩の中を漂流する羽目になった。
時間と兵力の無駄遣い極まりない嫌がらせタイムであったが、私の自爆に巻き込まれた将官の治療中に暇をしている兵士のガス抜きも兼ねた処刑イベントだったらしい。
そして部屋に戻ると大量の本が山積みにされていた。
私に暇をさせると味方に被害が出ると言う悲しい現実に気が付いたらしい。
乗せられてやるのは癪だがインテリジェンスな暇潰しが出来るなら私に否やは無い。
定期的に一度読んだ本を混ぜてくるな……私を試しているのか?
一度読んだ本には「三回目は殺す」と付箋を付けて返品する。
そうこうしている間に一週間が経過した。
3.魔王城・会議室
――バンッ
私をハブにしている間に人間国家を2つ落としてるってどう言う事だよ!?
軍事の最高責任者が何で何も知らされる事なく軍事行動が終わってるのさ!
「済まない……しかし君無しの魔王軍の実力を確かめておきたかったんだ」
そういう事なら仕方が無い。魔王くんも人が悪い。言ってくれれば普通に見守ったのに。
「言ったら人間側に情報を漏らしかねませんからね」
宰相くんがビーム案件な事を言ってきたが、実際私は人間の国に遊びに行く事が多いので悪意は無くても漏らす事は有り得た。妥当な判断だった。
「勇者がまだこちらに来ていないのは確認済みだったしの。通常戦力だけなら容易い事が分かっていて、勇者が手に負えなかった場合は元帥殿に頼る他無いのだから雑事くらいは我々に任せてもらわんと見せ場が無くのうてしまうわ」
マーメイドちゃんは四天王の影の薄さを気にしているようだった。
まあ言われて見ればその通りか。私が一人で無双の活躍をしても私一人が勇者になって他の魔族が認められなかったら意味が無いだろう。
そして私は勇者になりたくもない。あんな呪物と思考を繋げられるとか正気の沙汰とは思えない。
「今回の侵攻で最前線も4カ国と面する様になりました。兵力が薄くなるのは看過出来ませんので絶対に味方狩りはしないで下さい」
しないよ。もっと面白い事見つけたし。
4.ウーア帝国・フィーア領
へいへい拉致られ勇者ズ! 久しぶり!
私が手を下すまでも無く近いうちに薄汚い下級魔族共はこの地球産勇者に皆殺しにされるだろうからな。
私利私欲の為に戦争を吹っかけた魔王軍なんて悪性審判に為す術もないだろう。
「アイリスさん! お久しぶりですね! 無事な筈って分かってはいても実際にこうして姿を見るまでは不安でしたよ」
不死身だからと言って稽古していた筈の相手が消滅したらビビるわな。勇者くんには悪い事をした。
「あー! アイリスさん! 生首送り付けるの止めてください! びっくりしたんですから!」
紅一点の勇者ちゃんはゴア耐性が低めの様だ。これから魔族狩りの尖兵にされる筈なのだが……平気なのか?
「手紙に同封してくれた地図のお陰ですんなりこの国の庇護下に入れた。例を言う」
こちらこそ、いきなり居なくなってごめんね?
やたらと戦い方がスタイリッシュな勇者さんは唯一お礼を言ってくれた。地球産勇者の良心枠である。
ぶっちゃけ私の事を滅茶苦茶嫌ってる審判の鏡剣と旅をしたらいつ寝首をかかれてもおかしくは無かったので土地勘のあるウーア帝国を選んだのだ。
この国ならグレゴリオ君も居るし勇者の待遇が保証されているのは大きかった。
しかし君たち……戦闘訓練をしていた様だが、やはり魔王軍と戦うのかい?
「ええ……働かざる者食うべからずと言いますしね……縁もゆかりも無いこの世界で面倒を見て貰ってる以上何もしない訳には」
「戦うのは嫌ですけど……私だけ待ってるなんてもっと嫌だし、私の神器の権能は癒しですから。私が兄さんとそー君を助けるんです!」
「攻めて来ているのは奴等の方だろう? 国が3つ滅ぼされたと聞く。他人事じゃあない。俺達も元の世界に帰る方法を見つけるまではこの世界で生きていかなきゃならないんだ」
うーむ……私の国に来ないか?
そうしたら戦う必要も無いし、元の世界に帰る為の手助けもするよ?
「元の世界! 可能なんですか?」
一方通行って事は無いだろう。一度は神器が実際に実現させた現象だ。魔法陣も記録してるし神器本体と合わせて逆算していけば遠からずに可能なのではと思っている。
「それは是非! ……と言いたい所だったのですが……」
まぁ、半月以上ここのお世話になってるし今更簡単に鞍替えも出来ないか。私は魔族だし。
とりあえず私とニルバーナちゃんと戦場で会ったら見逃してくれるだけでいいよ。私達もそうするから。
身の置き所とかは戦争が終わった後にでもゆっくり決めるといいよ。
「そんな条件ありなんですか? 私達に都合が良すぎる気が……」
「あんたの仲間を俺達が殺す事になるかも知れないんだぞ?」
魔王軍を仲間とは思ってないから構わない。好きにやっていいよ。死なれちゃ困るお気に入りだけこっちで手を回して隔離しておくから心配しないで。
「それもどうなの……?」
言ったでしょ?
私は元々人間だったって。心情的にはどちらかと言うと人間側なんだよ。
私は心にも無い事を言って地球産勇者との談合を取り付けた。