1.敵より味方を殺した数が多い元帥
1.元あらすじ
この世界には12の神器が存在する。神器はそれぞれが自身の担い手足る『人間』を選び、自身を扱わせる。そして人々は神器に選ばれた者を世界に、神に、選ばれし勇者として尊んだ。
そして神器創造以来、魔族の者が勇者に選ばれた事は一度も無かった。
ある時、それを許せないと思った魔族達が徒党を組んで蜂起した。「我々は世界から知的生命体と認められていないのか!? 人より長く生き知識を蓄え、肉体も頑強だ。魔力の内包量も遥かに優っている! 勇者を打ち倒し、我々魔族がこの世界の守護者足り得ると見せ付け神器に選ばれるのだ!」
魔王軍の創設と人魔大戦の始まりである。
私? 私はそうは思わないかな。人間はちょっと弱すぎるから専用武器でテコ入れしてあげるくらいで丁度良いんじゃないかな?
じゃないと知らないうちに絶滅してそうだしね。
2.魔王城
今日は前線の視察をしてきた。
最前線の国境間際に配置されるような下級魔族は人間勢力からの攻撃を最初に受けて死ぬ事を期待された人材なので失っても惜しく無い者が置かれる事が多い。
無論、無能ばかりを置いたら国土失陥は免れない為指揮官クラスは優秀だが、雑兵は数が必要なのでゴブリンやコボルトと言った知性に乏しく可愛くない生き物が多く配置されている。
そしてそんなおバカな生き物たちは軍記を破って人間側勢力圏の非武装集落に出稼ぎに行ったりする。
……なんか今日は兵士の様子がおかしいな?
門番もそうだったし城内ですれ違う者も大体そうなのだが……
何かに脅えている様なそぶりを見せているのだ。
顔を青ざめていたり、声が上ずっていたり、明後日の方向に視線をやったりしている。
ここは内地で人間から攻撃を受ける様な場所ではない。
一体何にそんな脅えているのか私には分からなかった。
まったく分からなかったので偶然通りかかった宰相くんに声をかけた。
なんか兵士たちの様子が変じゃない?
「そうですか? 私には自然な事の様に思いますね」
どういう事? 私が知らないうちに何かあったの?
「アイリスさん。貴女は今日何をして来たのですか?」
私は軍記に反して人間領域に侵犯し、罪の無い民間人に乱暴していたゴブリンの部隊を皆殺しにした事を伝えた。
「それです」
どういう事?
「三日前には同じ理由でコボルトの部隊を皆殺しにしましたよね? 確かに軍記は守られるべきですが……些か殺し過ぎなんですよ。魔王様に次ぎ、実質現場の最高指揮官である元帥の貴女が日がな味方を殺して回っている……兵士達からしたら明日は我が身で生きた心地がしないでしょうね」
心外すぎるわ。私は反論した。
世界に魔族を認めさせる為の魔王軍が戦う力も持たない一般人を嬲り殺しにしているのを見過ごせと?
戦争に勝つだけでは勇者になれんぞ。
人も魔族も区別無く、この世界にあまねく全ての生物の守護者足らんとする覚悟を見せなければならないのだろう?
「だとしても限度がありますよ。警告や折檻をするという発想はないのですか? いきなり斬首ってどう言う事なんですか……一般兵士が居なければ戦争は出来ないのですからアイリスさんにも自重をして頂かないと軍が立ち行かなくなります。今後は軍記違反者を見つけても即処断は止めて我々幹部に相談して下さい。」
怒られてしまった。
宰相くんは言いたい事を言えて満足したのか立ち去っていった。
そもそもなんで神器に認められる為に戦争をする事になったのかと言うと人間側にメリットが無かったからだ。
勇者になりたいから決闘してくれと言われてもする訳が無い。
よって魔王くんは魔族が暮らす魔大陸と人間が暮らす天大陸の間にあった緩衝島にいきなり魔王城をぶっ建てて人間国家に宣戦布告をした。
戦争状態にする事で勇者が前線で戦わざるを得ない状況を作り、あわよくば一騎討ちをして勝つ事で世界に魔族が劣った存在では無い事を知らしめて神器に認められたいそうだ。
既に緩衝地帯と隣接していた人間国を陥落させ、植民地としている。最前線とはその植民地と隣接してる2つの人間国家との国境の事だ。
「なんであの人はスナック感覚で味方を殺すんだ? 今までに殺した人間の百倍は魔族を殺してるじゃないか……」
距離が出来た途端に宰相くんが私の悪口を言い始めたのを盗聴魔法がキャッチした。
なんで殺したのかと言われると下等魔族は可愛くないからだ。
私が元々人間だったから肩入れしてしまっている面もあるかもしれない。
しかし人間を襲ったのが可愛らしいテディベア部隊だったらさしもの私も手が止まっただろう。
なんなら抱きしめてキスをするまであるかもしれない。
そうならなかったのはゴブリンより人間の方が可愛かったからだ。
可愛くない上に知性が低い生物よりもそこそこ可愛げがあってそこそこ知性の高い人間の方が私の中での優先順位が高かったのだ。
それはそれとして宰相くんは私の悪口を言ったので壁越しに魔力ビームをピシュンと射出した。
尚、魔力ビームは私の必殺技である。
軽い発射音に反して莫大な魔力を収束して放つ、触れた物質と対消滅しながら飛翔する無属性魔法だ。
この世界における魔法は自分の体内で完結するタイプの物以外は何らかの属性を付与しないと著しく効率が落ちる。
こんな効率の悪い魔法を気軽に使える程の魔力保有量こそが私を元帥の地位にまで押し上げたと言っても過言では無いだろう。
透視魔法で宰相くんの様子を見てみた所、腰を抜かした状態で口をパクパクと閉口させている。
宰相くんがくるりと顔をこちらに向けた。
双眸の輝きからして宰相くんも透視魔法を使って私の様子を確認しているようだ。
壁越しに目が合ったのを確認出来た為、私はニッコリと笑い宰相くんの頭に向けて2発目の魔力ビームをピシュンと射出した。
「おうぁっ!?」
もんどり打ちながらビームを避けた宰相くんは顔を真っ赤にしてこちらに詰め寄って来た。
どう考えても怒られる流れなので私は転移魔法で自室に逃げた。
アイリスさん。主人公。1400歳くらい。元人間元皇女。享年16歳。生贄の儀式により1000万の臣民の命と引き換えに自分の魂、人格、記憶を自身の影へと転写。不滅の肉体と無限に等しい魔力を得た。本名アレクシア・イネファブル・リインフォース。