00. プロローグ
12話で完結します。
どうぞよろしくお願いします。
娘は息絶えていた。
雪のように白い肌に、黒檀のように黒い艶髪がはらりと掛かっている。
血のように赤い頬と唇は、まるで今にも動き出しそうに見えるのに。
腰に食い込む美しい絹の腰紐が、彼女の息の根を止めている。
だから今、びっしりと並んだまつ毛は、そのなめらかな肌に濃い影を落とすばかり。
規則正しく上下すべき胸は、ぴくりとも動かない。
娘の名は、白雪。
蝶よ花よと愛され育てられた、この国の姫君だ。
姫の側には、屈みこむ黒い影がいた。
腰紐を力の限り引き絞り、姫の呼吸を止めた影。
黒いローブの怪しい影だ。
曲がった腰、こぼれる白髪、手には杖。
老婆姿の影はしかし、ふいに立ち上がり、するりと背筋を伸ばした。
偽りの姿がかき消える、美しい立ち姿だ。
老婆の正体は、実は、この国の王妃。
魔女の血をひく美貌の妃だ。
ガサリ、とかたわらの茂みが揺れた。
音に振り返った王妃が、目深にしていたフードを落とし、そちらに向かって声を張る。
「隠れていないで、出ていらっしゃい」
ガサリ、もう一度、茂みが揺れる。
やがて観念したように、7人の小人が現れた。
太いの、細いの、ちびなの、ノッポなの。
体型はそれぞれ違うが、みんな揃いの服を着ていた。
揃いの長靴、揃いのズボン、頭には揃いの三角帽子。
彼らはみな手に石斧やクワを持ち、そろりそろりと近づいてきて、王妃越しに倒れた白雪姫を覗き込む。
1人目の小人が言った。
「ほ、本当に死んじまったのか?」
2人目の小人が言った。
「おお、なんてこと!」
3人目の小人が言った。
「あんまりだ、あんまりだよ」
4人目の小人が言った。
「こんな悲しいことがあるなんて」
5人目の小人が言った。
「でもごらん、あの愛らしい顔」
6人目の小人が言った。
「まるで眠っているようじゃないか」
7人目の小人が言った。
「ああ、俺たちの白雪が」
しかし最後に王妃が言った。
「あーはいはい、そういうのいいから」
腰に手を当て、白けた目で小人たちを見下ろす。
ビクリと固まる小人たちは、まるでヘビに睨まれたカエルのよう――。
そう、これは、転生継母王妃たるガブリエラが紡ぎ出す、少し毛色の変わった白雪姫のお話である。
白雪姫のお話、始まり始まり――。
次回、「転生王妃と魔法の鏡」