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青春の蒼い牙 ④

「結論から申し上げますと、先輩を助けたのはたまたまです」


 屋上でフェンスに寄りかかりながら、おれたちは並んで話していた。


「あの雨の日、わたしが家に帰ろうとしていたら変なケースが道端に落ちてたんですよ」

「変なケース?」

「はい。銀色の、いかにもって感じのやつです。映画で悪い人が運んでるやつ」

「ジュラルミンケースか」

「それを開けたらなんか変な機械がいっぱい入ってたんです。しかも説明書付き。難しい英語がびーーーっしり書いてあったんでよくわからなかったんですけど、多分死体? を再利用? するための機械? みたいで」

「よく開けようと思ったな……」


 会話を始めて五分と経っていないが、話せば話すほどこいつのことがよく分からん。


「なんかそういうのってわくわくするじゃないですか。乙女心をくすぐるというか」

「くすぐられるのは乙女心じゃねえ」


 いや、ジェンダーロールというものか? 女性がそういったものに好奇心をくすぐられることも当然あるだろうが……


「でもなんかマジなやつっぽくて気味が悪かったので、わたし、それを放置して帰ろうとしたんですよ。雨も降りそうでしたし。そしたら近くでドーーーーンッ! って」

「……」

「びっくりしてそっちの方見たら、もう人間がクッキーモンスターのクッキーみたいにバラバラになってて……」

「粉砕じゃねえか」


 えらいことである。


「大きなトラックが止まって、運転してた人が一瞬降りてきたんですけど、バラバラになった先輩を見てから慌てた様子でまたトラックに乗って行っちゃいました」

「ちょっと待ってくれ」


 おれは富良野の話を遮った。


「おめぇ、おれを轢いたトラックを見てたのか」

「え? はい、そうですけど」

「そりゃとんでもねえことじゃねえか。ナンバーは? 覚えてるか?」

「いえ、まったく」

「おい」

「覚えといた方がよかったですか?」

「轢き逃げの犯人じゃねえか、警察に通報するのが道理だろ」

「でも先輩生きてるじゃないですか」

「一回死んでるだろうが」


 いや、待て。その場合、おれを轢いたトラックの運転手はどんな罪に問われるんだ? 現状おれはこうして生活できているし、現場にはきっと証拠もない。

 ……難しい話になって来た。法律のことなど分からんから、今このことについて考える必要はなさそうだ。


「まあいい……そっからどうした?」

「『うわあ……』って思ったんですけど、丁度手元に死体を操るっていう謎の機械があったのでわたし、閃いちゃったんです」

「まさか……」

「はい。バラバラになった先輩の体を拾い集めて、組み立てて、説明書を読みながら機械を取り付けて行きました」

「おめぇ……おれの死体を拾ったのか?」

「あ、わたし、グロいのとか大丈夫なので」

「そういうこっちゃねえ……」


 もちろんおれは死んでいたから現場の様子など知る由もない。だが交通事故で人がバラバラになった現場というのがそれほど惨たらしいものなのかということぐらい、容易に想像がつく。


「いやあ~、血がスカートに付いて最悪でしたよ」


 それをあっけらかんとやってのけたこの女は一体……

 ぽかんとした顔をしている富良野を見て、しかし感謝こそすれ彼女を気味悪がるのは筋違いだと思ったのでおれは素直に頭を下げた。


「大変なことをさせたな。すまん」

「おや? ようやくわたしに対する敬意というものが現れてきましたね」


 うんうんと富良野は頷いた。感心した様子だ。


「先輩の体を全部集めて組み立てたのまではいいんですけど、急に天気が悪くなってきちゃったんで先輩の死体を大きな木に立てかけてわたしは帰りました」

「おい」


 最後まで面倒見ろ。


「でも完全に放置しようと思って投げ出したわけじゃないんですよ? 一応、仕上げに頭のアンカーに強力な電流を流し込まないといけないらしかったので、雷雨も近づいてましたしあの辺りで一番大きな木のそばに添えておきました」

「なるほど、それで……」


 雷鳴と共におれが覚醒したのはそういうわけだったか。仕上げの落雷とはますますフランケンシュタインの怪物だ。


「そういうことなら富良野、お前の調整は完璧だ。すっかり五体満足だ」

「わたしにかかれば当然です」


 ふふん、と富良野は再び胸を張る。

 ここまではいい。面妖な話だが、世の中にはおれの知らないことも多い。謎は謎として受け入れるべきだろう。

 だが、一つこの場で確実に明かさなくてはならない謎もある。


「おれが復活した経緯は納得したが、次の日におれの意識が急に飛んだのはなぜだ? 急に操られていたような気もする。動作不良か?」

「あ、いえ」


 富良野はあっさりと否定した。そして息も継がずにこう続けたーー


「あれはわたしが先輩を操っていました。先輩、わたしのスマホにBluetoothで接続されているので」

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