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青春の蒼い牙 ③

更新が遅れてすいません……

メインヒロインにしてメインヴィラン、ついに登場です

 おれが教室を飛び出してくるのに気付いた女生徒が俄かに駆けだした。


「おい、待てぃ!」


 小柄なその女生徒は思いのほかすばしっこく、学生で賑わう廊下を野兎のようにすり抜けていく。

 まさか後輩たちをなぎ倒しながら進むわけにもいかないので、おれはどんどん彼女から引き離されて行ってしまう。


「くそ……」


 あれよあれよと言う間に廊下の端まで辿りついてしまった。もはや富良野の姿はどこにもない。

 目の前には下の階に続く階段と上に続く階段がある。降りれば二階、二年生の教室がある階だ。そのまま降りて一階に下りれば三年生の教室がある階、そしてもちろん玄関がある階でもある。

 逆に階段を上がれば屋上だ。普段は誰も寄り付かない場所だが、無論逃げ場はない。

 富良野がどちらに行くのか、それは明確だ。


 ★


 屋上から正面玄関を見下ろせるスポットに、小柄な女生徒がポツンと立っていた。


「おい」


 小さな背中に声をかけると、その女生徒はビクッと体を震わせた。


「う、うぇ? どうしてここが……」

「裏をかいたつもりだろうが、このおれは騙せん」


 近付いて行くと、夕日を背にした彼女の顔がようやく見えた。丸くて大きな目に小さな鼻。小動物のような女だった。


「嘘だあ、どうせどっちか分からなかったら適当に屋上を選んだんです」

「そうとも言う」


 利発そうな声だった。しかしこんな奴が本当におれを蘇らせた人物なのか? てっきり狂気の科学者か何かだと思っていたのだが……


「おめぇが富良野操か?」

「はい、そうです」


 おれが問いかけると、女生徒は心なしか誇らしげに薄い胸を張った。


「わたしが富良野操。何を隠そう、先輩を蘇らせた張本人なのです!」

「……」

「あれ?」


 おれが黙っていると、富良野は呆気にとられたような顔をした。


「わたし、先輩が探し求めて止まない人間の正体ですよ? 先輩の命の恩人ですよ? もっとなんかこう、ないんですか?」

「おぅ、世話ンなったな。生き返らせてもらって感謝してるぜ。ありがとう」

「あっさりすぎませんか!?」

「『操』と書いて『あや』と読むんだな」

「え? あ、はい、よく『みさお』と間違えられるので気を付けてくださいね……じゃなくって!」


 富良野は困惑と憤慨の入り混じった様子でおれを睨んだ。


「そうじゃないでしょう! 先輩はもっとわたしにしがみついてみっともなくむせび泣いて感謝の気持ちを叫ぶべきなんじゃないんですか!? こんなエモーショナルな場面なのになんでそんな平然としていられるんですか!?」

「おめぇがおめぇじゃなかったらそうしてたかもしれん」

「ひどい!?」


 がっくりとうなだれた富良野は、「助けるんじゃなかったなあ……こんな人」などと言った。


「感謝してんのは本当でぃ」


 おれを蘇らせて操っている人間の正体が判明したのは大いに結構だが、それでも解決していない事柄が多すぎる。

 なぜ? どうやって? これからどうなる? そもそもなぜおれから隠れる?


「説明をしてもらってもいいんだろうな」


 夕日を背に立つ富良野にそう問いかけると、彼女は神妙な顔で頷いた。


「……ええ、バレてしまった以上、説明はさせていただきます」


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