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青春の蒼い牙 ②

 チャイムが鳴ると同時に、おれは席を立った。


「んお? バンちゃんどこいくねん?」

「ちょっと人に会ってくる」

「今日はいっしょに釣りに行く約束やないか」

「悪いが明日で頼む」


 おれは矢鱈にそう告げて二年B組の教室を出た。

 富良野とやらが逃げ出す前に何としてもやつに接触しなくてはならない。

 一年A組は順風の所属しているクラスでもある。先ほど休み時間に『富良野操という生徒はいるか』と携帯でメッセージを送ってみたものの、いまだに既読は付いていない。順風も忙しいのだろう。


「……」


 そうこうしているうちに一年A組の教室の前である。去年はおれもここで授業を受けていたのだが、全く違う生徒たちが入っていると全く違う空間に思えてくるから不思議だ。

 さておき――

 教室に入っていくと一年生たちの視線がおれに集まった。初めて見る人間が入ってくるのが珍しいのだろう。しかし別クラスの人間が友人を訪ねて来ること自体は珍しいことではないので、おれに対する好奇の視線もやがて散っていった。

 三十人以上もいる学生の中から富良野を探すのは不可能だろう。名前や字から女子生徒だと勝手に予想しているが、『操』とかいて『みさお』と読むなら男子生徒である可能性も捨てきれない。

 だが、おれには頼もしい協力者がいる。


「順風、ききたいことが――」

「出てって」


 窓際に座って友人と話していた順風は冷たく言い放った。


「何しに来たの? 最悪なんだけど」


 来栖宮と渋谷で会ったあの日はあれほどしおらしかったのに、また最近のような冷たい態度だ。思春期の女子のことはよくわからん。


「すぐ済む。このクラスに富良野って名前のやつはいないか?」

「知ってても教えるわけないでしょ。後輩の女子探してどうするつもり? キモイ」

「なんだと」


 そんなふうに会話していると、先ほどまで順風と会話していた女子生徒が意味ありげな表情を順風に向け始めた。


「荒町さん、この人って先輩だよね。もしかして……その……彼氏とか?」

「ありえないから!!」


 教室中に響き渡る大声で否定すると、順風は人差し指をおれに向けた。


「こんなのが彼氏とかありえないから! 生理的に無理だから!」

「てめえ! 兄貴になんて口ききやがる!」

「うるさいバカ兄貴! さっさと出てけ!」

「へ、へぇ……お兄さんなんだ……」


 先ほどまでの意味ありげな表情を引っ込めると、女生徒は困惑したように眉尻を下げた。


「違う! コイツが勝手にそう言い張ってるだけ!」

「コイツだと!」

「あーもう! 出てってよ早く!」

「富良野ってのがどいつか教えてくれりゃすぐにでも出てくつってんだろ!」

「なんでそれを知りたがるの!?」

「あぁん? それはな――」


 おれは順風の目を見て答えた。


「そいつがおれの思考を盗聴している奴だからだ」


 教室が凍り付いた。


「……ぬ?」


 なぜだ。なにかおかしなことを言っただろうか。

 教室中の目がおれに向けられている。

 ふと視線を順風に戻すと、彼女は顔を青くしたり赤くしたりしながら固まっていた。それはどういう表情だ。


「やはりおれは電磁波攻撃を受けていた。さっきもテスト中に左腕を操られて――」


 おれの言葉は、順風にぶん殴られたせいで続かなかった。

 我が妹ながらに天晴れな鉄拳でぶっ倒れたおれは順風の机に頭から突っ込んだ。

 にわかに悲鳴に満ちる教室。順風は仰向けに倒れたおれに馬乗りになった。


「殺すッ……! あんたを殺してあたしも死ぬ……!」


 鬼気迫る表情でおれの首を絞める順風だが、どうやらおれにはもう呼吸をする必要がないようでまったく苦しくない。

 悲壮な覚悟を見せる妹をよそに、おれは視線の隅で怪しい影を捉えた。

 何事かとおれと順風に視線が集まる中、たった一人だけこそこそと教室を抜け出していく人影があった。女子生徒だ。

 間違いない。あれこそが『富良野 操』だ。

 万力のような力でおれの首を絞め上げる順風を押しのけると、おれは一年生の教室を飛び出した。


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