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エリンの大地に  作者: 倉崎りん
第一章 白い花
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紫苑の放課後(番外編②)

駆け足で番外編を書くつもりが…意外と長くなってしまいました。文が先、絵は後付けになってしまいましたが、バスケット・コートのウルフとエドナ、追加しました〜。

甲状腺癌(こうじょうせんがん)ですね。亢退(こうたい)症から硬化(こうか)して、癌に発展してしまった。」


キアランは医師の説明を一人で聞いた。14歳の彼はその重みを全身に感じた。


「…長くないんですか?」


「いや、個人差もあるけどね、君のお母さんの場合、進行は速くはないようだよ。亢退(こうたい)症だから、今までも疲れやすかったり、体を動かすのが辛かったはずだよ。もう少し早く来てくれれば、癌に発展する前に進行を遅らせることもできたんだけど…。」


制服のズボンをギュッと握りしめた。母の顔が、そしてゼルダの顔が頭に浮かんだ。


「とにかく、治療方法を話し合うから、次は大人を連れてきなさい。」


病院には数少ないカトリック系の医師が優しくキアランを(さと)した。気持ちを切り替え、診察室を出て廊下のソファで待っていた母のところに行った。


「なんて(おっしゃ)ってた?」


「ん、大丈夫。大したことないよ。」


いつものように無表情で答えた。


「…キアラン、こっちに来なさい。」


母は微笑んで自分の座っているところにキアランを手招きし、座らせた。そして、全てを見透かすように彼の頭を撫でた。


「あなたは、分かりやすいのよ。素直で、純粋で…。」


キアランは目を見開いた。泣いてはだめだ、絶対に。


「いいのよ、大丈夫。」


母は自分より大きくなった息子を静かに抱き寄せた。泣かない、泣かないと心の中で呪文のように(とな)えていたキアランの目から、涙が(こぼ)れた。


エドナは少し離れたところから、その光景を見ていた。

珍しく晴れた空から夕日が病院の窓に差し込んでいた。


*************************


「どうしたらいいんだろう…。」


エドナは共用バスケット・コートのベンチに座り、ため息をついた。


「よっ!久しぶり。最近襲撃(しゅうげき)しないな。」


ウルフがボールを持ってフェンスの中に入ってきた。エドナはウルフを見て、また ため息をついた。


「もー、アンタはいつも呑気よね。」


「アンタは、って何だよ。俺だって、いろいろあるんだからな。」


いつもの応酬(おうしゅう)のつもりでウルフはエドナに言ったが、エドナは答える気力もなく、またため息をついた。ウルフはそれを見て、エドナの隣に座った。


挿絵(By みてみん)


「キアランのお母さんのことだろ。」


エドナはびっくりしてウルフの方を見た。


「やっぱりな。お前、持病があって病院に通ってるって前に言ってたよな。ここいらの病院で、カトリック系の医師が居るのはあの病院くらいだ。甲状腺の専門医はうちの母の古くからの友人で、キアランに紹介したのは母なんだ。」


「わたしは、どんな病状なのかは知らない。でも、きっと深刻な状況なんだろうな、って…。」


「これ以上は言えない。俺も心配はしてる。だけど、あいつには入って欲しくないエリアがあるんだ。小さい頃から俺はそれを尊重してきた。だから、あいつが話してくるまでは待つことに決めてる。」


「そんなの、友人と言えるの?わたし、何か力になりたいの。」


「じゃあ、無理やりこじ開けるか?拒絶されるだけだ。」


エドナは下を向いてしまった。


「…ぶち壊せって、言ったじゃない…。」


エドナはポロポロと泣き始めてしまった。ウルフは大きくため息をついて、エドナの頭をぽんぽん、と2回軽く叩いた。


「俺、お前のこと、好きだよ。キアランに勘違いされるけど、友人として。お前を見てると、幸せな気持ちになるんだ。明るくて、いつも楽しそうで。お前がキアランのドアを叩き壊してくれるんじゃないか、って、本気で期待してる。でもな、今じゃないんだ。」


そういうと立ち上がり、フェンスを出ようとした。フェンスの外を見ると、キアランが立ち止まって二人を見ていた。フェンスを出て、ウルフはキアランに言った。


「勘違いするなよ。」


そして、頭を掻きながらずんずんと先に歩き始めた。


「…それから、いいかげん、あいつの気持ちに気づけよ…。」


キアランはベンチに座るエドナの後ろ姿に振り返った。エドナは肩を震わせて泣いていた。いつものように天気の悪いこの町に、小雨が降り始めた。


*************************


シトシトと雨が降り続く朝だった。いつものようにウルフはキアランの家の前に差し掛かった。いつも一緒に学校に行くわけではない。出る時間が大体一緒で、お互い気を使わない。今日も特に声をかける気は無かったが、ふと玄関の前を見ると、片手に乗るぐらいの小さな黄色い花束が置いてあった。丁度キアランがドアを開け、見送りに玄関まで来たゼルダがそれを見つけた。


「かあさん、みてみて、お花よ。」


ゼルダはそれを持って家の中に消えて行った。

キアランはそれを振り返って見ていたが、気にせずウルフと合流し、歩き始めた。


「…なるほどな。考えたな。」


ウルフが呟くと、キアランが聞いてきた。


「あれは、お前か?」


「そんなわけないだろ。俺がそんなこと、すると思うか?」


「ああ、絶対にしないな。」


「だろ。」


そう言うと、笑顔で鼻歌を歌い出した。



それから毎日、小さな花束はオ・ニール家の玄関先に置かれていた。朝早く見つけたゼルダが母の元に届けるのが日課になった。


「綺麗ね。小さいけど、バランス良くアレンジしてある。」


母が笑顔を見せ、キアランに言った。ゼルダは母に寄り添い、花が小さな花瓶に活けられると、いつまでもテーブルの端に両手を置き、その上に顔を乗せてずっと笑顔で花を見ていた。キアランはその光景をネクタイを締めながら毎日見るようになった。


ある日の放課後、エドナが学校から帰る途中、いつもの公共バスケット・コートの前にキアランがいた。エドナが話しかけようか考えていると、キアランが口を開いた。


「ありがとう…」


そう言うと、近寄って先を歩き出した。


「えっ?!」


エドナはびっくりして立ち止まった。キアランは振り向いてうつむきながら話した。


「毎朝、花を置いてくれて。母や妹が喜んでる。」


「え…っと、なんで…。」


「ウルフに"お前は知らないかもしれないけどな、エドナの家は、花屋だ"って言われた。」


「あ〜、すぐバレるか〜。」


フッと笑ってキアランがエドナを見た。


「お節介だろ、あいつ。いつも俺は口を挟まない、って顔をしてるが、結局 挟むんだ。」


エドナはプッと笑った。キアランもエドナが見たことがないような笑顔を見せた。二人は並んでウルフの話をしながら歩き出した。


誰か…Paint pro教えてください…使いこなせません。

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