0−2 目が醒めると知らない世界だった
心地よい風が頬を撫でる。
昨晩冷房を点けたまま寝てしまったのだろうか。そういえば掛け布団掛けるの忘れてるのか身体が幾分軽い。
そんなことを考えながら目が醒めていく。
「なんかチクチクする……」
首筋や手足など露出している部分になにかが刺さる感覚がする。
微睡みながら意識を覚醒していくと徐々に違和感の正体に気づいていく。
「ちょっと待て、この感覚って、布団じゃないよな……」
目を開けるのが怖い。
確かに昨日俺は自分の部屋で寝たはずだ。あまりよく覚えていないが、ラーメンを食べ、適当にTVを観て、いつも通りに布団に入ったはず。
しかし、この感覚は遠い昔芝生に寝転がった時の感覚に似ている。
夢、だよな?
きっとまだ夢を見ているはず。
明晰夢って言ったっけ、自分が夢の中にいることを認識している夢。
明晰夢の中では空を飛んだり、魔法を使ったり自由にできるらしい。
夢だと分かれば、目をつぶっているのがもったいなく思えた。すぐにでも夢の中を満喫すべきだろう。
「そこの君ー! そんなところで寝転がっていると危ないぞー!」
思考の海を泳いでいると、遠くから誰かの声が聴こえてきた。
寝転がっている人って、きっと俺のことだよな?
「おーい! 聴こえているかー!」
声が近くなってくる、いい加減目を開けようか。そう覚悟を決めて、目を開く。
瞬間、太陽の光に目が眩む。
妙にリアルな感覚だった。
「お、生きているね。君、こんなところで寝転がっていると魔物に襲われるよ」
先程から聴こえていた声が、近くでまた聴こえる。
「ああ、すみません。なんかここで寝ちゃったみたいです」
そう答えながら、光に慣れてきた目で声のする方向を見た。
……猫? いや、人間? ちょっと待った、え、頭に猫耳生えてるよ?
そう、俺に話しかけてきた人物の頭には、まるで猫の耳のようなものが付いていたのだ。
よし、わかった。これはあれだ、獣人ってやつだな。ゲームとかによく出てくる人種だ。
うん、そうだ、夢なんだし、そういうこともあるだろう。むしろ、仕事以外ではゲームをして時間を潰すことが多い俺の夢なら充分にあり得ることだ。
「大丈夫かい? ぼーっとしているようだけど、どこか調子が悪いのかい?」
猫なおっさんが更に声をかけてくる。
「あ、大丈夫です。ほんと寝てただけなんで」
「寝てたって、君、さっきも言ったけど、こんなところで寝てたら魔物に襲われるよ?」
おっさんの心配する声に周りを見渡す。
辺り一面の草原。緑の中にポツンと点在する岩や木、そして一本の道。
しかも、道と言っても慣れ親しんだコンクリートではなく、ただ土が剥き出しになっている、かなり太い獣道のような道。
「そ、そうですよね。いやぁ、この辺りなら少しくらい昼寝しても大丈夫かなと思って……」
そんな言い訳をするとおっさんはだいぶ訝しんできた。
「昼寝って……確かにこの辺りはまだ魔物が少ないけど、それでもいつ襲われるかわからないんだから、もう少し気をつけたほうがいいよ」
おっさんの忠告に素直にお礼を伝える。
しかし、これからどうしようかなぁ。何をしてどこに向かえばいいかが分からない。
というか、今日食べるご飯さえないぞ。
そんな風に頭を抱えているとおっさんはまた俺に声をかけてきた。
「君、もしかして何か訳ありな感じ?行くとこないの?」
おっさんはどこまでもお人好しのようだ。
初登場の獣人は猫耳おっさん……
なぜなんだ、可愛い女の子を出す予定だったのに……