遊戯
徹夜の息抜きで書いたけど、せっかくなので供養投稿
「その質問に答えるのは簡単だけど君の理解力がついて来られるかは分からないなぁ。それでもいいなら答えてあげるよ」
「そう、なら答えてあげよう。今からずっとずっと未来の未来。魔法も魔物も亡くなって科学っていう、誰でも使える便利なのが社会の根幹を支えるようになった世界で一つのお遊びが流行ってたんだよ。順番待ちで自分の番が来るまでに数年かかるぐらいに大人気な」
「それはね、遠い遠い遥かに遠い過去を自分好みのストーリーになるように改変した後、自分の記憶にちょこっと細工をして、意識と記憶情報だけを過去に接続してその時代の人間の体を乗っ取って転生ごっこをする遊び」
「例えば“自分は事故で死んだらこの時代の人間に生まれ変わっていた。しかもそれは前世で見た女性向けの本や劇と同じ世界だったんだー”、的なね。私がいたところでは敢えて破滅予定の悪役になって生ヒロインを蹴落としてハッピーエンドが流行ってたね。態々他の人に精神干渉して性格を捻じ曲げたりしてね」
「そんなこんなでヒロインとして周囲をあっちこっちに振り回しまくって最終的には自分が望むハッピーエンド。まぁ時たま要領が悪くてバッドエンドにいきそうになっちゃう子もいるけど、大概は予め用意してたシナリオ通りに進むように未来の科学が補佐するようにしてあるから平気なんだけどさ」
「で、大概はクリアしたら記憶の細工も解除するようにしてるからね。気が住むまでその時代で生きて、飽きたら接続を切って元の時代に。物好きなのは使ってる体が死ぬまで細工を解除しないようにするのもいたけどさ。まぁそれも元の時代に戻れば夢感覚で終わるから精神的な影響は殆どないから出来ることだけど」
「ん?過去を改変したら未来も変わるんじゃないかって?それは良い質問だね。そうだな、まずは薄い鉄板を思い浮かべてみようか。その鉄板の上に何か重い物を乗っけたら鉄板は反るようになるよね?え?ならない?あー、そっか、こっちの薄い鉄板って普通に厚いもんね。ミリ単位の薄さにはしないんだよね、なまじ魔法で軽量も硬化とか出来ちゃうから」
「オーケーオーケー。気を取り直して木の枝を思い浮かべてみよう。そこに重石を吊るしたらしなって反るよね?うん、この重りが過去改変の影響。過去改変が大きければ大きい程に重しが重くなってくんだ。普通なら重しが重くなってったら枝は折れちゃうけど、時代改変の場合は折れちゃう前に重しが外されるんだよね。未来だと『時間の防護作用』って言われるのだけど、時間ってのは本来正しい形に戻りたがるんだ」
「で、急に重しを外されたら木の枝は大きく上下に揺れるよね。これが『時空震』って呼ばれる災害でね、強制的に過去を戻した影響で本来正しくあるべき未来の形が変わっちゃうんだ。例えば本来王様にはA王子がつくはずだったのに、時空震の影響でD王子が王様になっちゃったりとかね。それは時空震が強い場所ほど大きな改変になっちゃうんだけど、正しい形に戻ろうとして違う形になっちゃうとか皮肉だよね」
「待って、まだ説明途中で結論を出すものじゃないよ。ここまでだけだと未来は変わっちゃうと思うのもおかしくないけどさ。枝の震え、時空震にも届く最大範囲ってのがあるんだよ。あ、顔色が変わったね。察しの良い男の子は好きだよ」
「想像の通り、私達はその時空震の範囲外の未来から干渉してるんだ。時間ってのは面白いものでね時空震の影響がない未来は元のまんまだからね。極端な話、世界を砕いて消滅させても、その影響は私達の時代までは届かずに、何らかの形で元通りになって辿り着く位に遠い未来」
「だからみんな安心して遊びまくってたんだけど、安地――安全地帯で好き勝手やってるのってなんか平等ではないじゃない?だからさ、各時代に細工して時空震の影響が伝播してくようにしてみたんだ。細工した部分にまで時空震がくればそこからまた新しい時空震が発生するようにしてね」
「結果?過去に来てる私になんのペナルティも無しな時点でお察しだよ。未来がきちんと機能してたら既に私っていう存在は根本から消されてるからね。ああ、勿論精神だけの時間移動でもきちんと決まりはあるし、破ればかなーりキツい罰があるよ」
「そうじゃないって事は、未来で私を処罰する管理機構が永久的に機能して無い、もしくは機能不全になって全快は不可能になってるって事だよ」
「え?すごいね。そこに思い至っちゃうかぁ。その通り、未来が変わったらなら未来からきた筈の私に影響が出ない筈はないよね。でも、私は平然と君の前にいて今も話してる。これも時間の防護作用の一つでね」
「君の言った通り未来が変わって私が居なくなっちゃうと、その未来は到来しないんだ。よって変わる前の未来へと変化しないといけない。でもそうすると、また私が未来を変えてって形で無限ループが発生する。最終的には時間自体がそれに耐え切れずに自壊してしまうから、そうならない為にどこかで未来を確定させる必要がある」
「その確定の為に私は生きてるんだ。『直接意思を持って未来を改変した』私をね。後は同様の事をしでかすのが出てこないないように抑止作用として新しい未来では時間移動技術が完成しなくなるかも」
「確かに元の時代で管理機構が待ち構えてる可能性もあるね。でも、それまで手を出してこないなら成功したって考えた方が楽しいでしょ」
「まぁ、これが義姉が急に君に優しくなった理由だよ。中身が違うんだから、性格が違うのは当然だね」
「元の中身?んー、時間移動が戻った時に元の人格が復活するけど、興味がなかったから詳しい理由は分からないな。まぁ記憶や知識も元のまんまだから傍から見れば急に幼児退行した感じになるみたいだけど、未来に戻る気もないから死ぬまでは私だから関係はないよ」
「これで満足した?アハハ、君が周りにバラしても君が変な嘘をついてるか頭がおかしくなったって思われるだけだよ」
「これからもよろしくね、義弟君。君が私の味方のうちは私が君を守ってあげる。代わりに、義弟君も私の役に立つように頑張ってね?」