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天色のなみだ  作者: 夏目はるの
8/70

第8話

「みんな忘れ物ないー?」


千里の一言でみんなが一斉に荷物を漁り始める。


海へ行く当日、集合場所は神谷くんの家だった。

なんと神谷くんのお姉さんが海まで送迎をしてくれるそうで、

さっき挨拶にいったら笑顔で「気にしないで」と言ってお菓子までくれた。


顔は神谷くんそっくりで、かっこいいお姉さんって感じ。惚れそう。


「じゃあ乗って〜。」


神谷くんのお姉さんの言葉で、車に乗り込む。


車に酔いやすい千里は前の席へ。

車酔いはほとんどしない私は由香ちゃんと共に後部座席に乗り込んだ。


「楽しみだね!」

「だね!天気もいいし。」

「ほんとに!お菓子たくさん持ってきたよ~」

「由香ちゃんがそのセリフいうと小学生感が凄いよ・・」

「なっ!失礼な!」


ごめんごめん、とふくれっ面をする由香ちゃんに謝る。

結局最初に開けたのはチョコレート菓子で。

皆で騒ぎ、そしてお菓子を食べながら海への期待を膨らませるのだった。



・・・車の中でも、私は海にすごく惹かれていた。


テレビで見たことだってあるし、

きっと覚えていないだけで直接見たこともあるだろう。


なのに、何故かすごく、心がぞわぞわした。




「着いたー!!」


しかし、そんな気持ちに変化が現れたのは着いてすぐ。


海を目の前にしてテンションを上げる皆とは裏腹に、私の心は急速に萎んでいく。


さっきまでの惹かれていた気持ちはどこへ行ったんだろう。

なぜか気持ちが急に落ち込んで、の何とも言えない気持ち悪さに襲われる。


「・・・変なの。」


思わずこぼれた言葉。


私の様子に気づいた千里が駆け寄ってくる。


「奈月?どうした?」

「・・・ちょっと酔っちゃったみたい。」


この気持ち悪さをなんと表現したらいいか分からずそう言えば、

千里が心配そうに顔をのぞき込む。


「ちょっと休んでれば治るから。由香ちゃんと泳いできな!」

「でも・・・」

「いいからいいから!ほんとに大丈夫!」


心配性の千里をなんとか説得して、皆が海を楽しむ中、一人ビーチパラソルの下で涼む。


しばらく休んでいたら、気持ち悪さも治まってきて。


今なら泳げそうな気もしたけど案外ここにいるのも心地よく、

見るだけで十分だな、と満足した気持ちになった。


「・・・。」


海風が心地よくて、少し瞼を閉じてみる。


「奈月?寝てんの?」

「・・・うとうとしてた。」


声が聞こえて目を開ければ、「疲れた〜」と私の隣に腰掛ける要の姿が。


「皆は?」

「向こうでビーチバレーやってる。」


要が指さした方を見れば、

海からあがって楽しそうにボールを追いかけるみんなの姿が。


笑ってみていれば、要が私の顔をのぞき込む。


「具合大丈夫?」

「・・・大丈夫だよ。」


泳いでいたため髪の毛が濡れている要は、なんか少し変な感じ。

なんだか別人のようで目を逸らしてしまう。


「なんか。見てるだけで満足しちゃった。」


誤魔化すように話題を変えて、海に目を向ける。


「車の中では楽しみだったのにね、着いたら急に気持ちが萎んじゃって。」


要に目を向けず話していた私は、彼の変化に気づくことはなく。


「・・・それになんか怖いなあ。」


自然と口からこぼれた言葉。

怖い、という感情がなんだか少し可笑しくて笑ってしまう。


「・・・?」


そこで初めて、要の相槌が消えたことに気づく。


どうしたんだろう、と気になって要の方を向いた、が。


彼は私をじっと見ていた。


視線は交わっているはずなのに、そこに要の意識はない。

私の先に、何かを見ていた。


その表情はあまりにも悲しそうで、痛々しくて。

思わず息を呑む。


「・・・要?」


心配になってそう声をかければ、

はっとしたように要は笑顔に戻る。


「・・・ごめん、ぼーっとしてた。」


そういった要は既にいつもの要で。

さっきまでの表情は嘘のように消えていた。


「奈月ー!要くん!一緒にやろうよ!」


どうかしたの、と聞こうとした私の声は

その千里の声にかき消される。


要はその声に手を挙げて答えて、私に手を差し出した。


「行こう。」


もう一度聞くのも躊躇われて、頷いて要の手を握る。


「いちゃつくなよー!」と叫ぶ神谷くんの声に2人で顔を見合わせて笑った。

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