第7話
「あ!あそこ!みたことある!」
「どこ?あの大きい建物?」
「そう!あのながいやつ!」
そういうなり男の子、たっくん(とママに呼ばれているらしい)は
私の手を引っ張って走り出す。
元気を出したたっくんはよく話す明るい子で。
スーパーの近くを歩いているうちに、
徐々に家までの道のりも思い出してきたようだった。
たっくんに手をひかれるままに進んでいけば、
急にたっくんが立ち止まる。
目の前に見えていたのは二手の分かれ道。
「どうしたの?」
「・・・これ、どっちかわかんない。」
キョロキョロと辺りを見回したたっくんだが、
やはり思い出せないのか視線を落とす。
「大丈夫!両方行ってみればいいんだよ。
一回間違えてもまだ戻ればいいんだからさ!」
「・・・うん。」
私の言葉に小さく頷く彼。
しかしまた不安になったしまったのか、
私の服の袖をぎゅっと握りしめていて。
まだこんなに小さいのだ、
お母さんと会えない不安はとても大きいのだろう。
たっくんの気持ちを想像するとまた胸が苦しくなる。
自分自身そんな経験はないはずなのだが、なぜか鮮明に苦しさを感じて。
「・・っ・・あ!!」
この感情は何なのだろう、と考えを巡らせていた私は
不意のたっくんの大声に現実に引き戻される。
彼の視線を辿れば、
そこにはベービーカーをおす女の人の姿が。
その女性もたっくんを見つけると
目を大きく見開いた。
・・もしかして。
「たっくん!!」
女性の下へ駆け寄ったたっくんはその胸に飛び込む。
彼女もしっかりとたっくんを抱きしめていて。
「ままっ・・!」
やはり。
彼女がたっくんのお母さんなんだろう。
ベビーカーの中では小さな女の子がスヤスヤと眠っている。
きっとあの子がたっくんの小さな妹、ちいちゃんだ。
「すみませんっ・・!本当にありがとうございました!」
「そんなそんな!私は何も!」
ちいちゃんを寝かせようと寝室であやしていた彼女は、
たっくんが外に出ていったことに気づかなかったらしく。
しばらくしてからいない事に気づいて、
慌てて外を探し回っていたらしい。
よく見れば彼女の額には汗が浮かんでいて。
それにとても心配していたのだろう、
その目は潤んでいるように見えて。
勝手に出ていったことを叱った彼女に、
たっくんは素直に謝ってから、でも、と言葉をつなぐ。
「ちいちゃんのミルクかってきてあげようとおもったんだ。
ままがいそがしそうだったから。」
その言葉に息をのんだ彼女は、
たっくんを抱きしめて、ごめんね、と彼の頭をなでる。
見ている私も胸が熱くなって、
泣きそうになってしまった。
「おねえちゃん、ありがとう!」
「いえいえ。もう迷子にならないように気を付けるんだよ。」
「うん!!」
そう言ってニコニコ笑顔で私に手を振ってくれたたっくんは、
お母さんと妹とともに二手に分かれた道の右側へと進んでいく。
歩き始めてからその先にある角を曲がるまで、
何度か振り返って私に手を振ってくれた。
「・・・ふう。」
・・さて、全て解決したように見えるこの状況で。
一つ問題がある。
「・・どうやって帰ればいいんだろう。」
そう、
たっくんに引っ張られるままにたどり着いたこの道。
実は私がまだ来たことのない場所で。
この分かれ道を進んでも帰れる気はするのだが、
どっちに進めばいいのだろう。
さっきのたっくんと同じ状況だ。
「・・・・」
どっちの道が正しいのか、全く見当がつかない。
・・たっくんはお母さんが迎えに来てくれて道を決められたけど。
私はどっちに行けばいいのだろう、
どうやって決めればいいのだろう。
なぜだろう。
別に大したことじゃ無い、ただ帰る道を探すだけなのに、
とても心細くなって。
自分にはたっくんのように迎えに来てくれる人はいない、
道を教えてくれる人もいない。
・・って、何考えてるんだろ。
変な風に重く考えてしまう自分が可笑しくて、
それでもなんとなく気持ちが落ち込んで、しばらくその場に立ちすくんでしまう。
このまま動けなくなってしまうんじゃないか、
なんて思ってしまった私に。
「・・奈月?何してんの?」
突如後ろから聞こえてきた声。
その声に、とても安心して。
「・・・迷子。」
「え?馬鹿なの?」
「うるさい!要こそ、こんなとこで何してるの?」
「神谷ん家行ってた。この辺なんだよ。」
そう答えた要は私の手からスーパーの袋を奪う。
「これどっち行けばいいの?」
「分かない。」
「え!?神谷くん家から帰る時通るんじゃないの!?」
「普段はこの道通らないんだよな。
今日はなんとなく新しい道開拓してみようとおもって。」
「なにそれ。ダメじゃん。」
なんだよ迷子が偉そうに、と私の頭を軽くたたく。
まあ、と要は息を吐いて。
「両方行ってみればいいじゃん。間違えてたら戻ればいいし。」
「・・うん。そうだね。」
そうだよ、
その言葉さっき自分がたっくんに言ったはずなのに。
間違えてても別に戻ればいい、うん、そりゃそうだ。
なにをあんなに心細くなっていたんだろう。
ほら、帰ろう。と要がゆっくりと歩き出す。
私もその後に続いて歩き始めた。
私にも私を導いてくれる人がいる。
道が分からなくても、正解が分からなくても一緒に歩いてくれる人がいる。
不意に、自分がとても幸せだと感じた。




