第64話
「…要くん。」
「…おう。」
それからまた数日が経ったある日、
久しぶりに千里に会った。
千里もしばらくは学校を休んでいたらしく、
お母さんが優しすぎて怖かったよ、そう言って彼女は笑った。
「…あのね。」
しばらくの沈黙の後、彼女はゆっくりと口を開く。
「奈月が居なくなって、もう生きていけないと思った。奈月がいない生活なんて考えられないし、私だけ幸せになることなんてできない。」
そこまでいって千里は大きく息を吐く。
涙が溢れるのを必死に堪えているように見えた。
「…でもね、不意に前に奈月に言われた言葉を思い出したの。」
高校に入ってからしばらくして、
奈月の様子がおかしい日があったと言う。
あとで風邪をひいていたのだと分かったのだが、
その時千里は奈月が具合が悪いのだとは気づかなくて。
結局倒れて保健室に運ばれて、
すぐ目も覚め風邪も少し長引いただけで大したことはなかったのだが、
責任を感じた千里は奈月の前で泣いてしまったらしく。
その時、涙を流す千里をみて奈月は言ったのだという。
「『千里の笑顔が私の元気の源だから。千里が笑ってないと私の風邪も治らない!』ってね、笑ってたの。」
その時のことを思い出したのか、
千里は小さく笑みをこぼす。
奈月らしいな、そう思った。
俺の方へ向き直った彼女は、
まっすぐ俺の目を射抜いて。
「…私ね、笑うって決めたの。奈月の分まで。笑顔で生きようって。…そうしないとまた怒られちゃうかなって。」
そう言って千里は悪戯っ子のように笑った。
少し寂しそうだったけど、その目はもう暗くなくて。
彼女は進もうと足掻いているんだ。
前を、向いたんだ。
そう思った。




