第63話
「・・久しぶり。」
それから数か月後。
徐々に外出が出来るようになっていた俺は、
横山から電話を受け、学校の音楽室へと足を運んでいた。
「大分やつれたね。・・ちゃんと食べてる?」
「・・おう。心配かけて悪かったな。」
俺の事を心配してくれる横山だが、
彼の顔も少しやつれているように見えて。
「佐川は?」
「・・まだ元気ではないかな。でも前よりは大分落ち着いたよ。」
「・・そっか。」
しばらく何でもない話をした後、
おもむろに立ち上がった横山は隅っこにあった
グランドピアノへと腰かける。
「・・俺さ、ピアノ弾いてるって言ったじゃん。」
横山の言葉に頷く。
あれは確か去年の秋の初め頃。
なんか言うの恥ずかしくて今更だけど、と
横山は俺と神谷にピアノが弾ける事を話した。
素直にすごいと思ったし、聞きたいと思った。
恥ずかしがることなんて何もないのにな、そうも思って。
「ピアノやってる事が何となく恥ずかしくてさ。なかなか言えなくて。」
「・・うん。」
「・・・皆に話すきっかけをくれたのは、奈月ちゃんだった。」
突然出てきた奈月の名前に、
心臓が大きく飛び跳ねた。
横山はそれ以上は詳しく話さなかった。
じっとピアノの鍵盤を見つめていて。
「・・俺、約束したんだ。」
そしてまた、ゆっくりと話し始める。
「またピアノ聞かせる、って。
・・・奈月ちゃん、『私の好きそうな曲選んどいてよ』ってさ。」
横山の声は震えていて。
でもそれでも、
彼は顔を上げて微笑んだ。
「『多分、私選んでくれた曲全部好きだよ』って、笑ったんだ。」
「・・奈月らしいな。」
俺の言葉に横山がゆっくりと頷く。
「・・要、聞いてくれる?奈月ちゃんに聞かせたくて、選んだ曲。」
「・・・うん。」
俺が頷けば横山は微笑んで、
鍵盤の上に手を置いた。
それから何分くらいが経過したのだろう。
そんなことも分からないほど、俺は横山の演奏に聞き惚れていた。
音楽に疎い俺が知っている曲はなかったにも関わらず、
全ての曲が美しくて、するすると俺の中に入り込んでくる。
「・・なんで、もっと早く練習しとかなかったんだろう。」
演奏し終わった後、
横山はそう言って悲しそうに微笑んで。
「奈月ちゃんに、聞いてほしかったなあ。」
そう言って、静かに泣いた。




