第59話
奈月、拓海さん、鈴香さん、雨野さん。
皆で過ごす時間はとても楽しくて。
けれど楽しくなるほど心が苦しくなった。
彼らは、本当は、もう、この世界には。
皆と過ごす時間が増えれば触れるほど、
その事実が重く響いて。
一生一緒にいられるわけではないのだ。
終わりが来てしまうのだ。
もう、二度と会えなくなってしまうのだ。
奈月だけでない、
拓海さんだって鈴香さんだって、自ら命を絶つという道を選んだ。
こんな素敵な人たちが、
その道を選ばざるを得なかったのだ。
その事実が悔しくて悲しくて、
どうにもできない自分に腹が立って。
春なんて来なくていい、このまま時間が止まればいいのに。
なんて馬鹿なことを考えて、涙がこぼれた。
時間が進み __ 3人が亡くなった日に近づくにつれて、
徐々に矛盾が現れてくるのがわかった。
その矛盾と違和感から、
最初に全てを悟ったのは鈴香さんで。
「・・要くん。ちょっといい?」
鈴香さんに呼び出され、
篠山荘の近くの公園のベンチに2人で座る。
鈴香さんが話そうとしていることが何となくわかって、
何も言えず鈴香さんの言葉を待った。
「昨日ね、ニュースを見たの。」
「・・うん。」
「なんでかね、絶対に見なきゃいけない気がして。
休みの日なのに目がさえちゃってさ。珍しく早起きちゃった。」
ははっ、と笑った鈴香さん。
そして、ゆっくりと息を吐きだして。
「・・そっか。私、逃げちゃったのね。」
たった一言。
その言葉が重くて、悲しくて。
涙が出そうになるのを必死でこらえる。
「・・ねえ、要くん。」
「・・・なに?」
「要くんはまだ、戦ってるのよね?」
なんとなく分かるわ、と鈴香さんは微笑む。
「私とも拓海とも・・奈月ちゃんとも違う感じがするもの。」
何も言えず俯く俺にの名前を、
彼女はもう一度呼ぶ。
「私ね、後悔はしてないのよ。」
「・・・え?」
「彼女を助けたこと。」
彼女、というのは最初にターゲットにされていた同僚の事を指すのだろう。
「後悔・・してないの?」
「もちろん。」
「もしもう一度やり直すことが出来たとしても、
私はきっと同じ事をするわ。」
そう言って笑った彼女の笑顔ががあまりに眩しくて。
ああ。
今井鈴香とはこういう人物なのだ。
どこまでも優しく、どこまでも真っすぐで。
そしてまた思う。
どうしてこんな素敵な人が。どうして。
「・・・ほら!メソメソしないでよ!いつもみたいに軽口叩いて笑いなさいよね〜 !」
そういった彼女は優しく笑って、
俺の頭をぐりぐりと押す。
「っ・・・痛い!馬鹿力!怪力!」
「はいはい。うるさいのはこの口かしら?」
「痛たたた!!」
変な顔〜、と俺の頬を引っ張って鈴香さんは声を上げて笑った。
つられて俺も笑ってしまう。
・・・笑ってしまった、はずなのに。
「・・・要くん。」
笑いと一緒に、零れてきたのは涙。
そんな俺を見て鈴香さんは困ったように微笑んで。
「大丈夫よ。要くんなら。」
「要くんに出会えて、よかった。」
彼女は最後に、そう言って俺に笑いかけた。
いつもの笑顔で、俺の前から、この世界から去っていった。




