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天色のなみだ  作者: 夏目はるの
59/70

第59話

奈月、拓海さん、鈴香さん、雨野さん。


皆で過ごす時間はとても楽しくて。


けれど楽しくなるほど心が苦しくなった。


彼らは、本当は、もう、この世界には。

皆と過ごす時間が増えれば触れるほど、

その事実が重く響いて。


一生一緒にいられるわけではないのだ。

終わりが来てしまうのだ。


もう、二度と会えなくなってしまうのだ。


奈月だけでない、

拓海さんだって鈴香さんだって、自ら命を絶つという道を選んだ。


こんな素敵な人たちが、

その道を選ばざるを得なかったのだ。


その事実が悔しくて悲しくて、

どうにもできない自分に腹が立って。


春なんて来なくていい、このまま時間が止まればいいのに。

なんて馬鹿なことを考えて、涙がこぼれた。




時間が進み __ 3人が亡くなった日に近づくにつれて、

徐々に矛盾が現れてくるのがわかった。


その矛盾と違和感から、

最初に全てを悟ったのは鈴香さんで。



「・・要くん。ちょっといい?」


鈴香さんに呼び出され、

篠山荘の近くの公園のベンチに2人で座る。


鈴香さんが話そうとしていることが何となくわかって、

何も言えず鈴香さんの言葉を待った。


「昨日ね、ニュースを見たの。」

「・・うん。」

「なんでかね、絶対に見なきゃいけない気がして。

休みの日なのに目がさえちゃってさ。珍しく早起きちゃった。」


ははっ、と笑った鈴香さん。

そして、ゆっくりと息を吐きだして。


「・・そっか。私、逃げちゃったのね。」


たった一言。


その言葉が重くて、悲しくて。

涙が出そうになるのを必死でこらえる。


「・・ねえ、要くん。」

「・・・なに?」

「要くんはまだ、戦ってるのよね?」


なんとなく分かるわ、と鈴香さんは微笑む。


「私とも拓海とも・・奈月ちゃんとも違う感じがするもの。」


何も言えず俯く俺にの名前を、

彼女はもう一度呼ぶ。


「私ね、後悔はしてないのよ。」

「・・・え?」

「彼女を助けたこと。」


彼女、というのは最初にターゲットにされていた同僚の事を指すのだろう。


「後悔・・してないの?」

「もちろん。」



「もしもう一度やり直すことが出来たとしても、

私はきっと同じ事をするわ。」


そう言って笑った彼女の笑顔ががあまりに眩しくて。


ああ。

今井鈴香とはこういう人物なのだ。

どこまでも優しく、どこまでも真っすぐで。


そしてまた思う。

どうしてこんな素敵な人が。どうして。


「・・・ほら!メソメソしないでよ!いつもみたいに軽口叩いて笑いなさいよね〜 !」


そういった彼女は優しく笑って、

俺の頭をぐりぐりと押す。


「っ・・・痛い!馬鹿力!怪力!」

「はいはい。うるさいのはこの口かしら?」

「痛たたた!!」


変な顔〜、と俺の頬を引っ張って鈴香さんは声を上げて笑った。

つられて俺も笑ってしまう。


・・・笑ってしまった、はずなのに。


「・・・要くん。」


笑いと一緒に、零れてきたのは涙。

そんな俺を見て鈴香さんは困ったように微笑んで。


「大丈夫よ。要くんなら。」




「要くんに出会えて、よかった。」



彼女は最後に、そう言って俺に笑いかけた。


いつもの笑顔で、俺の前から、この世界から去っていった。

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