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天色のなみだ  作者: 夏目はるの
58/70

第58話

「高校生?若えなあ。」


そう言って彼は初対面の俺の頭をぽんぽん、と叩く。

嬉しそうに笑った顔はまるで子供のようで。


こんな先生が学校にいたら、毎日楽しいだろうな。

なんて思った。




__平野拓海さん。



学生時代の彼は学校もさぼりがちで、

教師になるなんて誰も予想していなかったそうだ。


しかし教師になると決めた彼はそこから人一倍努力を重ねて、夢を叶えたらしい。


25歳になった時、拓海さんは初めて自分のクラスを持つ事になった。


担任という立場になるのはとても不安だけど、それでもやっぱり嬉しい。

そう、拓海さんは同僚に語ったそうだ。


しかし、事件が起きたのは6月。


拓海さんのクラスで1人の男子生徒がいじめを受けている事が分かったのだ。


それにいち早く気づいた拓海さんはいじめてる生徒に注意をし、

いじめられている生徒とも何度も話を重ねた。

しかし状況は改善しなくて。


学校側にも話をした。

「いじめがある、生徒の親とも話した、しかし何も変わらない。

学校全体の力が必要だ。」 と。


校長先生の返事はこう。



『何を言っているんだ。この学校にいじめなんてあるはず無いだろう。私は知らない。』



拓海さんの務めている中学校は、歴史ある私立校だった。

学校側はその名前に傷が付くことを恐れたのだ。


学校はあてにならないと思った拓海さんは自分の力で何とかしようと、

色んな事を試みた。


寝る間を惜しんで対策を考え、

保護者を交え何度も話し合い。


『どんどんやつれていき、見ている方が心配になるくらいだった。』

インタビューの中で、そう彼の同僚は語った。



拓海さんの思いは、生徒には届かなくて。



数ヶ月後、いじめを受けていた男子生徒が自殺をした。


ニュースにも大きく取り上げられ、そこで学校側が発したコメントは。



『担任教師がクラス状況を把握できていなかったため、

いじめにも気がつく事が出来なかった。』



真っ赤な嘘だ。

けれどそのコメントは真実として受け取られる。


拓海さんは絶望した。


責任を全て自分に押し付けようとする学校に、

何もかも真実だと受け取ってしまう世間に、



そして。


大切な生徒を、守れなかった自分に。




拓海さんの自殺後、テレビでは自殺した男子生徒の母親が涙ながらに語っていた。



『先生はとてもいい人だったんです…っ…あの子も、平野先生の事が大好きで…、

先生が担任でよかった。そう、いつも言っていました…』


世界はなんて残酷なんだろう。





そんな2人は入居者したばかりの俺に優しく話しかけてくれた。


2人の優しさに触れて嬉しくなる一方で。



きっと誰かも、2人に会う事を望んだんだ。


そう思うと、悲しくなった。

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