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天色のなみだ  作者: 夏目はるの
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第56話

奈月がいなくなってから数週間経っても、学校へ行く気にはなれなかった。


…駄目なのだ。

家から出たら、外にあるもの全てが奈月を思い出す鍵になってしまう。

ずっと一緒にいたんだ。

奈月との思い出がそこら中に溢れていて、とても1人で進む事なんて出来やしない。



そんなある日の平日。


何故だろう、それは本当にわからない。

けれど突然外に出ようと思ったのだ。

どこかに行かなければならない、と何かが俺を強く突き動かした。


一枚上着を羽織って、玄関のドアを開ける。

外の空気を吸うのはとても久しぶりで、

眩しい太陽の光に目がクラクラした。


目的地も決めず、ふらふらと歩いて、

たどり着いたそこは。



__ 路地裏に佇む、古ぼけた珈琲店。


お世辞にも綺麗とは言えない外見に何故かとても惹かれて、ドアに手をかける。


入ってすぐ目についたのは古ぼけた鳩時計。

壁にはモノクロの写真が貼られていて、

周りの棚には壺や時計、様々なものが飾られていた。


中にお客さんは一人もいない。


カウンターの方に目を向ければ、そこにはここの店主と思われる仏頂面のおじさんが豆を挽いていた。


その人は俺の存在に気づくと、手を止める。

その目は真っ直ぐに、何も言えず立ち尽くす俺を射抜いた。


「…大事なものを失くしたのか。」

「っ…なんで…。」


突然の言葉に驚く。

俺の方を見た彼は、まるで俺の全てを知っているかのように見えて。


「ここに来るのはそういう奴らばかりだよ。」


そう言ってふっ、と笑った店主は俺に椅子に座るよう促した。


雨野、と名乗った店主はカウンター越しに俺と向き合って、そして、問う。


「…過去を変えることはできない。」


当たり前の事だ。そんな事分かってる。

けれど実際口に出されると、胸が抉られたように痛んだ。


「…それでも。」


そこで雨野さんは一旦言葉を止める。




「それでも、会いたい人がいるのか。」



その質問に目頭が熱くなって俯く。

体が震えて、胸が更に激しく痛んだ。

…それでも、会いたいか。


俺は、俺は、彼女に、奈月に。


「…会いたい。」


そう口にしたら涙が溢れた。


無理だとしても会いたい。

もう一度だけ、たった一度だけでいいから会いたい。


彼女は俺を恨んでいるだろうか。

何も出来ず、何も守れなかった俺を憎んでいるだろうか。

分からない、分からないけど。


奈月に、会いたい。


震えた声でそういう俺に、雨野さんはゆっくりと頷いた。


「後悔するなよ。」


雨野さんのその言葉を聞くと同時に急にあたりが暗くなる。

耐えきれないほどの眠気が襲ってきて、俺はゆっくりと目を閉じた。

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