第55話
お葬式はあの人の姿もあった。
それは当たり前だ。
だって彼は、奈月の父親なのだ。
…でも。
涙を流す事もなくただじっと立っている彼を見ていたら我慢ができなくなって。
「…どういうつもりだよ。」
気づけば俺は、奈月の父親のもとへ向かっていた。
彼の前に立って震える声を絞り出す。
俺の声に気づいて顔を上げた彼は、俺の記憶の中の昔の姿とはかけ離れていた。
全体的に細くなった体とこけた頬、
肌は青白くて目に輝きはない。
「何やってんだよ。」
俺が全て知っていると分かったのだろう。
彼は少し驚いたように目を開いてから、
震える声で話し始める。
「…奈月が自殺した日、俺は家にいた。」
目を伏せて話す彼の声はとても小さくて。
「仕事で失敗していつもよりイライラしてたんだ。…それで。」
その日のことを思い出すように斜め上を仰ぎ見て、苦しそうに顔を歪める。
そして、息を吸って。
『全部お前のせいだ。やっぱりお前はあの女の娘なんだな。』
その日奈月に言ったという言葉を繰り返した。
目頭があつくなる。
体が震えて、無意識に腕に力が入った。
その言葉を聞いた彼女は何を思ったのだろう。
どうしてそんな残酷な事が言えるんだ。
「その時の奈月は…、初めてみた表情をしてた。」
殴ってやろうと思った。
こんな父親思い切り殴りつけてしまおう、本当にそう思った。
けれど、体は動かなくて。
俺に話し終えた彼は大きく息を吐いて俯いた。
俯いた彼の肩が徐々に震えを増していく。
そしてそのうち、小さな嗚咽をもらしはじめた。
一滴、二滴、と地面の色が変わっていく。
殴る気力も無くなって、
けれど許す気にもなれなくて。
結局俺は何も言えずその場から立ち去った。
発見された時、彼女は装飾品の類は何も身につけておらず、持ち物はなかったそうだ。
しかし数日後、奈月の父親や親戚が彼女の部屋を掃除したらしいが
俺があげたネックレスは見つからず。
彼女が発見されるまでの間に外れてしまったのだろう。
ネックレスでさえも彼女と最後まで一緒にいれなかったのだ。
最後の最後まで奈月を1人にしてしまった事をそこでまた強く実感して、
涙が溢れた。




