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第53話
海には誰もいなかった。
必至に奈月の名前を呼んだけど、返事は聞こえない。
叫んで、
走り回って、
そして、見つけてしまった。
誰もいなかった。
やはりそこには誰もいなかった。
けれど、浜辺に揃えて置かれていたのは奈月のサンダルで。
それが全てを物語っていた。
力が抜けて砂浜に座り込む。
頭がガンガンと痛んで、そして今までの全てが頭の中でぐるぐると回り続ける。
なんで、どうして、俺が最初の電話に出ていたら?いや、奈月はいつから決めていた?俺はなんで気づけなかったんだ、なんで、俺は何をしていたんだ、結局、何もできなかった、彼女のために何も、ああ。
__俺のせいだ。
溢れた涙は止まらない。
すすり泣きはやがて嗚咽の混じる号泣に変わる。
滴る涙が砂の色を変えて、
波音は俺の嗚咽をかき消した。
春の海は冷たくて、残酷で。
でもとても、美しかった。
その日の夕方、海の中から女子高生の遺体が見つかった。
検査の結果、それは奈月で間違いない、そう伝えられた。




