第45話
「~~~~・・」
壇上でマイクを使って話すのは音楽の先生。
体育館の中はとても寒くて、そのうえ制服でひざ掛けも禁止。
そのためほとんどの生徒が疲れ切った顔をしていて。
卒業式が迫った3月上旬。
今日は卒業式での全校合唱の練習が行われていた。
かじかむ手に息を吹きかけながら、
もうすぐ卒業を迎える3年生に目を向ける。
・・卒業、か。
大学進学なのか、
就職なのか、
それともそれ以外の道なのか。
ほとんどの先輩がもう既に決めているのだろう。
・・・私は。
私は、卒業できるのかな。
急に頭の中に浮かんできた疑問に、
自分でも驚いて。
卒業できるのかな、って。
なんでそんなことが心配になっているんだろう。
・・・変なの。
「旅行行こうよ!本格的に受験生になる前に!」
「あー、いいね!」
1時間ほど寒さに耐え教室に戻ってきた私と千里は、
教室で旅行会社のパンフレットを広げていた。
「美味しいもの食べれるところがいいよね。」
そう言って笑う千里に頷いて、
曇っている窓の外を見つめる。
「…つき!奈月!!」
「…ごめん、ぼーっとしてた。」
最近あんた気抜けすぎじゃない?
そう言って千里は私の頭を笑って小突く。
「旅行って結構お金かかるよね。」
「ねー!泊まりだとかかっちゃうよね。」
「奈月、両親から仕送りとか来てるの?」
なんとなく、本当に千里がなんとなくした質問。
なぜか私は咄嗟に答える事が出来なくて。
…仕送り。
「もらっ…てるのかな・・?」
「なにそれ。」
私の答えに千里は呆れたように笑うけど、
私の頭は働かない。
あれ、私、どうやって生活してたんだ?
両親から雨野さんに直接お金が渡ってたんだろうか。
胸のあたりがぞわぞわする。
「奈月の両親に会ってみたいなあ。写真とかないの?」
…写真。
そういえば撮ったことないな。
そう千里に答えれば、そっか、と残念そうに口を尖らせる。
「じゃあじゃあ!奈月に似てる?」
どうだろう、と少し思考を巡らせる。
途端に胸のざわざわが大きくなって、
得体の知れない気持ち悪さが身体中を蝕み始めた。
胸が音を立ててなりはじめる。
息が、苦しい。
「奈月どっち似なんだろう、気になるー!」
そんな私の様子に気づかず千里は話し続ける。
しかし気持ち悪さは広がるばかり。
呼吸が難しくなってきて、
徐々に意識が遠のいていくのが分かる。
「…奈月!?」
私の異変に気付いたのだろう。
視界の隅に焦った千里の顔が映る。
「奈月!!大丈夫!?」
千里の叫び声に周りから人が集まってくる、
誰かが先生を呼ぶ声も聞こえる、
しかし私の意識はそれ以上持たなかった。
…落ちていく意識の中で。
浮かんで来たのは暗い部屋に座り込む私。
そんな私が見つめる先には、怒鳴り声をあげて暴れる男の人。
不意に動きを止めた男の人は、私の方を向いて。
『お前はもういらない。』
そう言って狂ったように笑った気がした。




