第43話
その後、気づけば私は家の中で座り込んでいた。
目の前には心配そうな要の顔があって。
「大丈夫か?早退?」
何も答えない私の額に手を当てて、熱はないな、と独り言のように呟く。
「こんな所に座ってないで部屋で寝てろよ。」
そう言って要は私を立ち上がらせようとするけど、
体に力が入らない。
そこで異変に気付いたのか、要はどうした、と私に問う。
「…拓海さんが…出て行っちゃった。」
絞り出したその声に、
要が息を飲むのが分かった。
さっきの光景が思い出されて再び溢れてきてしまった涙に、
私はそれ以上何も言葉にすることができなくて。
俯いたまま嗚咽をもらす私を、
要は静かに抱きしめた。
そして、ゆっくりと口を開く。
「…俺は、ずっとここにいるよ。」
要の声は震えていた。
その言葉にどうしようもなく安心して、
さらに涙が溢れ出す。
「俺は、ずっと奈月と一緒にいるから。」
自分でも確かめるように、ゆっくりと言葉を紡ぐ要。
そして、抱きしめる手に力を込めた。
…どうしてだろう。
すぐ近くに感じる要の体温はとても暖かいのに。
なぜか少し、悲しくなった。
その夜から、私は熱を出した。
学校以外の時間は要が看病をしてくれ、
お昼は雨野さんが世話を焼いてくれる。
そのおかげであまり心細くはなかったが
高熱は3日間も続いて、かなり苦しい思いをした。
3日で熱は下がったもののまだ体調が万全ではなくて、4日目も学校を欠席。
そんな私の元に、千里、神谷くん、そして由香ちゃんと横山くんもお見舞いに来てくれて。
明日はいけるから、ありがとう。
そう言って皆に手を振った。
__ 熱を出して寝ている間。
私はずっと同じ夢を見ていた。
私が、初めてここに来た時の夢。
不安な気持ちで篠山荘の入り口を覗く私に、
どこかから声がかかる。
その声に反応して振り向けば、
そこに立っていたのは私と同い年くらの男の子、要で。
要は初めて会った日、とても驚いた顔をしていた。
まるで __ 幽霊にでも会ったかのような、
そんな表情。
なんて言えばいいか分からず、
しばらく見つめあった私たち。
不意に彼は笑った。
そして私に言ったのだ。
『____。』
…あれ。
その言葉だけが、どうしても思い出せない。
毎日同じ夢を見たのに、
要が言った言葉だけはもやがかかったまんまだ。
私を見て、驚いて、でもその後笑った彼は。
私に何と言ったのだろう。
__ 春は、もうそこまで来ていた。




