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天色のなみだ  作者: 夏目はるの
41/70

第41話

「…なーんか、雨降りそうだね。」

「ねー…。」


鈴香さんがいなくなってから2週間。


篠山荘での生活は変わらないが、

やはり前よりも静かで。


不意に鈴香さんの顔を思い浮かべると、

泣きそうになることがある。


「あ、そうだ。私そろそろ携帯変えるんだ。」


少し悲しい気持ちに陥っていたら、

窓の外を眺めていた千里が私にそう声をかける。


「そうなの?」

「そう、壊れちゃって。だから電話番号とメールアドレスもう一回教えてよ。」


分かった、と千里に返事をした後、

不意にどうしてだろう、とある疑問が沸き起こった。


それは __ 携帯から鈴香さんの連絡先が

一切消えていた事。


もともと知らなかったのか、

それとも間違えで消えてしまったのか。

それは全く覚えていなくて。


でも勝手に消えるなんて事は普通に考えて有り得ないだろう。

きっと最初から交換していなかったんだ。


…毎日篠山荘に帰れば会えるから。

そう、安心していたんだろうなあ。


そう自分の中で結論を出して、

千里の方へ向き直る。


「…私、なんで鈴香さんに連絡先聞いとかなかったのかなあ。」


は?と千里は私の言葉に眉をひそめた。


馬鹿だね、なんで聞いとかないの。

そんな事を言われるんだろう、


そう、予想していたのに。



「鈴香さんって誰?」



「…え?」



千里の口からこぼれたのは、そんな疑問だった。

思わず動きを止める。


「ちょっと…何言ってるの…?」


自分の声が震えているのが分かる。


「それはこっちの台詞だよ。…奈月の知り合い?」


千里はふざけていなかった。

素直な性格の彼女は、嘘がつけない。


こんな本当に不思議そうな顔をして、嘘をつけるはずがないのだ。


「冗談やめてよ…。」


絞り出した私の言葉に、

千里は本当に分からない、というようにかぶりを振った。


千里が鈴香さんを知らない訳がない。


鈴香さんの話をした事は何回もあるし、

直接会った事だってある。


鈴香さんがいなくなってしまってからも、

何度も泣いている私を慰めてくれたのは千里だ。


…どういう事?


俯いたまま固まってしまった私を心配して、

千里が私の方を揺する。


何か言っているようだけどなにも耳に入ってこなくて。


…けれど急に。



「そういえば、中学校の話聞いた?」


その言葉が、鮮明に耳に入ってきた。


それを話しているのは千里ではない、

近くに座っていた、2人のクラスメイトで。


「中学校って、ここから一番近い所の?」

「そう、駅の近くの。」


…拓海さんが働いている学校だ。


その2人の声だけはやけに鮮明に聞こえてくる。


「あそこ、いじめがあったらしいよ。」

「えー、なにそれ怖。どこ情報?」

「弟の友達情報。」


半笑いで話す2人とは対照的に、

私の鼓動は激しさを増す。


「それで、いじめられてた子がさ、

この前 __」


ガタンッ


急に大きな音がなって、教室中の話し声が止む。


だれかが椅子を音を立てて引いたのだ。


その人物に視線が集まって、

教室は少しの間沈黙に包まれる。



「ちょっと…!奈月!どうしたの!?」


椅子を強く引いて立ち上がったのは、

他の誰でもない私だった。


戸惑ったような千里の声と、

私に集まっているのが分かる多くの視線。


けど今はそんなものどうでもよくて。


「奈月!?」


机にかけてあった鞄を掴んで教室を飛び出した。


後ろから千里が私の名前を呼ぶけど、

振り返らずに走り続ける。



…帰らなきゃ。


なぜか強くそう思った。

理由なんて自分でもよく分からない。


けれどどうしても今帰らなきゃならない気がして、

まっすぐ、篠山荘へと走った。

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