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天色のなみだ  作者: 夏目はるの
37/70

第37話

その日の夜。

珍しく部屋に来客があった。


「入ってもいい?」


部屋のドアが二度ノックされ、

控えめに声がかかる。


どうぞ、と返事をすれば、

ドアが開いて入ってきたのは鈴香さん。


「ごめん、勉強してた?」

「いえ、集中できなくて困ってた所です。」

「それならよかった。」


鈴香さんはそう言って笑って、

部屋のベットに腰掛けた。



__ 暗い表情と、光の見えない瞳。


そんな鈴香さんの今朝の様子が思い出される。


しかし今私の部屋でくつろいでいる鈴香さんは、

いつもと変わらない笑顔で。


…けれど、なんだろう。

うまく言葉にできない違和感が、そこにはあった。


「学校はどう?楽しい?」

「楽しいですよ。千里にいつも振り回されてます。」

「ふふっ、振り回されるなっちゃん、想像できるな〜」


私の言葉にくすくすと笑う。


声も表情もなにもかも、

いつもと変わらないように見える鈴香さん。


なのに違和感は消えなくて。


…自分の体調がどこか少しおかしいのだろうか。



それから他愛もない話をしばらくして。


学校で要がモテるという話で大笑いをしていた(失礼)鈴香さんは、ひときしり笑い終えたあと。


あのさ、と私の瞳を捉えた。




「…なっちゃんは今、幸せ?」



不意に真剣な顔をした鈴香さんは、私にそう問う。


咄嗟に答える事が出来なくて、少し黙り込んでしまう。


なんでだろう。胸が少し苦しい。


「…幸せ…です。」


ぼそり、鈴香さんに聞こえるかも分からないような呟きが溢れる。


幸せ?

私は今、幸せ?


心の中で自問自答を繰り返す。


…帰れる場所があって、

大切な人がいて、

一緒に生きたいと、思える人がいる。


私は今 __



「__幸せです。」


今度ははっきり、鈴香さんに聞こえるように。確信を持ってそう答えた。


幸せの定義は人それぞれだけど。

でも私は今、幸せだ。

温かい人達に囲まれて生活できる今の状況が、

幸せでないはずが無いじゃないか。


私の答えを聞いてから数秒後、

鈴香さんはそっか、と笑って表情を崩した。


そしてもう一度私に向き直って、

嬉しそうに、でも悲しそうに、笑う。



「後悔しちゃ駄目よ。」

「…え?」


そうだけ言って彼女は目を伏せた。


口元に笑みをたたえていたけれど、

何かを諦めたような、そんな風にも見えて。


…やっぱり、今日の鈴香さんは少し変だ。



その後は急にテンションを上げた鈴香さんと、

色んな話を夜中まで続けた。


学校の話、鈴香さんの昔話、会社での話。

こんなにたくさん話をしたのは初めてで、

笑い疲れて、一緒に眠った。



眠気に耐えられず、意識を手放す瞬間。


私を見つめる鈴香さんが、ごめんね、と呟いたような気がした

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