第37話
その日の夜。
珍しく部屋に来客があった。
「入ってもいい?」
部屋のドアが二度ノックされ、
控えめに声がかかる。
どうぞ、と返事をすれば、
ドアが開いて入ってきたのは鈴香さん。
「ごめん、勉強してた?」
「いえ、集中できなくて困ってた所です。」
「それならよかった。」
鈴香さんはそう言って笑って、
部屋のベットに腰掛けた。
__ 暗い表情と、光の見えない瞳。
そんな鈴香さんの今朝の様子が思い出される。
しかし今私の部屋でくつろいでいる鈴香さんは、
いつもと変わらない笑顔で。
…けれど、なんだろう。
うまく言葉にできない違和感が、そこにはあった。
「学校はどう?楽しい?」
「楽しいですよ。千里にいつも振り回されてます。」
「ふふっ、振り回されるなっちゃん、想像できるな〜」
私の言葉にくすくすと笑う。
声も表情もなにもかも、
いつもと変わらないように見える鈴香さん。
なのに違和感は消えなくて。
…自分の体調がどこか少しおかしいのだろうか。
それから他愛もない話をしばらくして。
学校で要がモテるという話で大笑いをしていた(失礼)鈴香さんは、ひときしり笑い終えたあと。
あのさ、と私の瞳を捉えた。
「…なっちゃんは今、幸せ?」
不意に真剣な顔をした鈴香さんは、私にそう問う。
咄嗟に答える事が出来なくて、少し黙り込んでしまう。
なんでだろう。胸が少し苦しい。
「…幸せ…です。」
ぼそり、鈴香さんに聞こえるかも分からないような呟きが溢れる。
幸せ?
私は今、幸せ?
心の中で自問自答を繰り返す。
…帰れる場所があって、
大切な人がいて、
一緒に生きたいと、思える人がいる。
私は今 __
「__幸せです。」
今度ははっきり、鈴香さんに聞こえるように。確信を持ってそう答えた。
幸せの定義は人それぞれだけど。
でも私は今、幸せだ。
温かい人達に囲まれて生活できる今の状況が、
幸せでないはずが無いじゃないか。
私の答えを聞いてから数秒後、
鈴香さんはそっか、と笑って表情を崩した。
そしてもう一度私に向き直って、
嬉しそうに、でも悲しそうに、笑う。
「後悔しちゃ駄目よ。」
「…え?」
そうだけ言って彼女は目を伏せた。
口元に笑みをたたえていたけれど、
何かを諦めたような、そんな風にも見えて。
…やっぱり、今日の鈴香さんは少し変だ。
その後は急にテンションを上げた鈴香さんと、
色んな話を夜中まで続けた。
学校の話、鈴香さんの昔話、会社での話。
こんなにたくさん話をしたのは初めてで、
笑い疲れて、一緒に眠った。
眠気に耐えられず、意識を手放す瞬間。
私を見つめる鈴香さんが、ごめんね、と呟いたような気がした




