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天色のなみだ  作者: 夏目はるの
35/70

第35話

冬休みが迫った平日の放課後。


「・・おわった~・・」


誰もいなくなった教室で1人日直の仕事を片付けていた私。


黒板もきれいにしたし、学級日誌も書いたし、

あとは集めたプリントを教務室にもってくだけ。

意外と疲れるものだ。



「あれ、奈月ちゃん?」


突如ガラガラ、と教室のドアが開き、

誰かが私の名前を呼ぶ。


「神谷くん。」

「こんな時間までどうしたの?」

「ちょっと日直の仕事があって。神谷くんこそ部活は?」

「ああ、今日は休みなんだ。」


そう言って神谷くんは教室の中を見回す。


「もしかして宮前先生ってもう帰っちゃった?」

「どうだろう。でももうしばらく見てないよ。」


私の言葉にまじかー、と彼は肩を落とす。


宮前先生というのは私の担任で、担当教科は数学。


神谷くんの手に握られている数学のプリントを見るに、

どうやら課題の提出に来たのだろう。


「それ、今日までなの?」

「・・いや、先週まで。」

「もうアウトじゃん。」


私の言葉にははっ、とさわやかに笑う。

いや全然笑い事じゃないからね。


こんな神谷くんだが、実は私なんかより全然頭がいい。

毎回10番以内をキープしているのではないだろうか。


「あー、いいや。明日だそ。」

「いいの?」

「うん。どうせもう期限過ぎてるし。

・・ていうか奈月ちゃん寒くないの?」

「とても寒い。」

「だよね。」


神谷くんの言葉に速攻で頷く。


教室の隅にあるストーブは授業終了直後にすでに消されていて、

教室内の気温は既にかなり下がっていた。


「でももうあとはこれ持ってくだけだからさ。」


私の言葉に神谷くんの視線が机の上のプリントへと移る。


「そっか。これどこに持ってくの?」

「ん?教務室だよ。・・って、いいよいいよ!」


当然の事のように机のプリントを持ち上げる神谷くん。


「手伝うよ。」

「大丈夫だよ!私の仕事だし!」

「でも1人じゃ大変でしょ。」


そう言って神谷くん半分以上のプリントをもって歩き出す。


「・・ありがとう。今度なんかおごるね。」

「いいよほんとに。」


私の言葉に神谷くんは振り返って笑った。


私も残りのプリントをもって、

神谷くんの後に続く。


「あれ、そういえば今日要は?

あいつなら奈月ちゃんの仕事終わるまで待ってそうだけど。」

「先に帰ってもらったの。付き合わせるの悪いしさ。」

「そっか。逆にそれで不機嫌になってそうだね。」

「・・よくわかったね。」


神谷くんの想像通り。


私の仕事を待っててくれようとした要を、

今日は時間がかかりそうだと無理やり返した私。

・・最後には小学生みたいないじけた顔をしていた。


私がその話をすると、

ぷっ、と吹き出して大声で笑い始める。


「ほんと要って奈月ちゃん大好きだよね。」

「え、いやそういうのではないでしょ。」

「どうだか。奈月ちゃんはどうなの?」

「どうなのって・・別にどうもないよ。」

「へえ~・・」


曖昧な私の返答に、

神谷くんはニヤニヤと笑って私の肩を叩く。

これはクリスマスの時の仕返しだろうか。このやろう。


「・・でもまじめな話、

要と奈月ちゃんって本当にお互いの事信頼してるんだな、って思うよ。」

「・・・そう?」


神谷くんは笑って頷く。


「なんだろう。いつでも繋がってる、みたいな感じがする。」

「・・なんか照れるね。」

「お、素直。」


思わず本音を漏らしてしまった私を神谷くんは見逃さない。

またからかうように私をつついた。



「要にしか話してない話とかもあるんじゃない?」


「そんなことは・・。」


ないよ、と言おうとしたのに、

言葉がつっかかった。


要にしか話してない事?

そんなこと、あったっけ?


別になんてことない質問のはずなのに、なぜか言葉が出てこなくて。


何か、何かがすごく引っかかる。

要にしか言ってない事、この言葉が頭の中をグルグルと回った。


・・あれ。

誰にも知られたくなくて、誰にも言いたくなくて。

でも、要には言えた事。



って、なんだっけ。



「奈月ちゃん?」

「・・・あ、ごめん。」


神谷くんの呼びかけでグルグルと回っていた

思考がピタリ、と動きを止める。


「大丈夫?すごいボーッとしてたけど。」

「ごめんね、大丈夫。寝不足なのかも。」


心配そうな神谷くんに笑って誤魔化す。


その後もしばらく残っていた謎の違和感。

しかし時間が経つにつれて薄れていって、

神谷くんと別れる時にはすっかり私の中から消え去っていた。

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