第34話
電車に揺られること数十分。
駅のホームに降り立った途端に磯の香りと湿った空気が流れ込んできて、
海の存在を強く感じる。
「はやくはやく!!」
「はいはい。」
駅から歩いて数分。
すぐに見えてきた海に、胸が高鳴った。
そこには心配していた気持ち悪さなんて全くなくて。
「…綺麗。」
そこは、別世界だった。
星空が水面に反射して、
海はキラキラと輝いていて。
灯りなんてほとんどないはずなのに、
そこはとても眩しく見えて。
私の目の前で、ゆっくりと揺れる。
それ以上何も口にすることが出来なくて、海をじっと見つめる。
…ずっと、この景色を見ていたい。
自然と目が惹きつけられていた。
夜の海にはやはり私達しかおらず、
波の音だけが暗闇の中で反響する。
…身始めてからどのくらい経ったのだろう。
しばらく夜の海に見とれていた私は、視線を感じて横を向く。
ぱちっ、と要と目があった。
「…なに?」
「…いや。やっぱ綺麗だなって。」
「ね!来てよかった〜!」
私の返事にだな、と笑った要は私の名前を呼ぶ。
返事をして振り返れば、
突然首に回ったのは要の腕。
反応できず固まっていれば、数秒後、
私の首に何かがつけられた。
「これ…。」
「クリスマスプレゼント。」
私から離れた要はそういって照れたように笑った。
自分の首元に目を向ける。
銀色に光ってるのは、リング型のネックレスで。
「…私何も用意してない。」
「知ってる、奈月だもん。」
「…ありがとう。」
私の言葉に彼は笑って頷く。
プレゼントを貰えるなんて予想もしてなかった。
人からネックレスをもらうなんて初めてだ。
だから。
とても、とても嬉しい、はずなのに。
嬉しさと同じくらい込み上げてくるのは、
胸が張り裂けそうなほどの切なさ。
「…奈月?」
俯いてしまった私の顔を要が覗き込む。
込み上げてくる気持ちが整理できなくて、
突然、涙が溢れてきてしまった。
嬉しさと切なさが胸の中でぐちゃぐちゃに混ざって、ただただ涙がこぼれ落ちる。
何故だろう、とても苦しい。
「…泣くなよ。」
頭上から降り注ぐのは要の優しい声。
そして私の頭をぽんぽん、と叩く。
なんで自分が泣いているのかさえ分からない。
なんでこんな気持ちになっているのかわからないのに。
要の声に戸惑いの色はなかった。
まるで__私が何故泣いているのか、全て分かっているようで。
その後、私の涙が止まるまで、
要はずっと待っていてくれた。
泣き終えた私の顔を見た彼は、変な顔、といつものように私をからかう。
「…帰ろ。」
そういって自然に差し出された手を握る。
右手に要の体温、
首元にはネックレスのひんやりとした感触。
とても安心して、でも。
胸の切なさは消えないままだった。




