第31話
「なっちゃんは今日出かけたりするの?」
「ぶはっ!……千里と買い物に。」
盛大に味噌汁を吹いた私に
鈴香さんが慌ててティッシュを持って来てくれる。
要が必死に笑いを堪えているのが見えた、許さん。
…クリスマス当日の朝。
休日にも関わらず仕事があるらしい拓海さんは既に出勤していて、
拓海さん以外の4人で朝食を食べている。
「大丈夫?」
「大丈夫です、すみません。」
今日要と2人で出かけることは篠山荘の皆には内緒だ。
要と2人で出かけることは割とあるのだが、流石に今日はクリスマス。
…もしバレれば大人2人にからかわれることは間違いないだろう。
「要くんは?予定あるの?」
「俺は神谷と飯食いに行く。」
動揺して味噌汁を吹いてしまった私とは対照的に、要は涼しい顔をして嘘をつく。
…なんかムカつくな。
「…この味噌汁、今日も奈月か?」
机の上の豆腐を拾い終えた私に、
雨野さんが顔を上げてそう問う。
はい、と頷けば雨野さんは少し頬を緩めた。
「…上手い。」
その表情と一言で胸が暖かくなって、
笑みがこぼれる。
「…ありがとうございます!」
雨野さんは基本的に無口だ。
表情はいつも硬くて、優しそうなおじいさん、とはお世辞にも言えない。
けど、いつも周りをしっかりと見ていて、
少しの変化にも気づいて気にかけてくれる本当に優しい人なのだ。
友達と出かけるらしい鈴香さんは、
ご飯を早々に食べ終えて部屋へと引き上げる。
雨野さんの珈琲店も今日はいつもよりお客さんが多くなることが予想されるようで、
お昼からお店の方へ行くそうだ。




