第29話
「あ、奈月ちゃん!」
「神谷くん。どうかしたの?」
その日の放課後、先生に用事があって職員室に行った帰り、
いつもはあまり会うことのない神谷くんにばったり会った。
話を聞けば私を探していたんだそう、珍しい。
「あー、えっとさ。」
「うん?」
その理由を聞けば、神谷くんは口ごもって少し俯いてから、
勢いよく顔を上げる。
そんな彼の耳は真っ赤で。
「明後日、クリスマスじゃん。」
「うん。」
「そのー…千里と出かける約束とかしてる?」
「あー、うん。ご飯食べに行こうってさっき話してた所。」
クリスマス、特に予定がなかった私は千里と一緒に夕飯を食べに行こう、
と計画していた。
「そっか〜…」
少し悲しそうにそう言った神谷くん。
急な質問に最初はハテナマークが浮かんでしまっていたが、
今の神谷くんの態度である仮説が頭に浮かぶ。
…自然と笑みがこぼれてしまって。
ははーん、これは。
「…まあ別にこの前も一緒に出掛けたばっかりだし、2人で出かける必要もないんだけどね。」
「…本当?」
「うん、本当。むしろ女2人でクリスマス過ごすよりも、ねえ。」
そう言ってからにやり、と笑えば軽く小突かれる。
「…クリスマス、千里のこと誘いたいんだ?」
私の言葉に一瞬答えるのを躊躇って、
けれど堪忍したという風に頭を振る。
「……はい。」
「素直でよろしい。」
照れながら頷く神谷くん。
緩んでしまう口元を頑張って引き締めるも効果なし。
顔はにやけっぱなしだ。
こんな話を聞いたら協力するしかないだろう。
「…私、今日中に千里との約束断るから。」
「本当にいいの?」
「もちろん。」
「…奈月ちゃん寂しいクリスマスになっちゃうよ?」
「余計なお世話だわ!」
背中を叩けば痛い!と大袈裟に仰け反る。
神谷くんが千里の事を好きなのは薄々感づいていたし、
本人から直接聞いたことはないが、
千里も神谷くんに好意を持っていることは間違いないだろう。
クリスマスが終わったら2人をからかい倒してやろう、と決めて
千里へと断りのメールを送った。
「へー、じゃあやっと誘えたんだ。」
「そう。千里もかなり照れてたよ。」
帰り道、神谷くん達のことを話せば
やっとかよ、と笑う要。
どうやら大分前からうだうだ言っていたらしい。
「楽しみだなー、2人の話聞くの。」
「だな。絶対からかい倒してやろ。」
「さっき全く同じこと思ってた。」
そんな事を話しながらまだ雪で覆われている道路を歩く。
出来るだけ誰も歩いていない所を通ろう、
なんて小学生みたいな事を考えながら歩いていた私。
不意に、要が立ち止まった。
「…要?」
「なあ。」
私の問いかける声と要の声が被って。
「俺たちも、2人で出かけようよ。」
突然の言葉に一瞬時が止まった。
「・・・え?」
「…ほら、雨野さん達にいつもお世話になってるからさ。プレゼントとかあげたいじゃん。」
「ああ!そういう事ね。」
なんでも無いように要がそう付け加えるから、
少し焦ってしまった自分が馬鹿みたいだと恥ずかしくなる。
「…なに?デートに誘われたかと思った?」
「そんな訳ないじゃん。」
「ほんとー?」
「自意識過剰も大概にしろっ」
そう言って笑ったけど、心臓はまだ少しドキドキしていて。
涼しい顔でそんな事が言える要が恨めしくなって
少し脛を強目に蹴ってやった。




