第19話
「・・そっか。」
お米を研ぎながら要はうーん、と唸る。
「俺も今日横山から話聞いた。」
「ほんと!?・・横山くんはなんて言ってたの?」
私たちが由香ちゃんに話を聞いていたお昼休み、
要も横山くんから由香ちゃんとの事についての話を聞いたらしい。
恐る恐る聞けば、要はゆっくりと首を振って。
「奈月が佐川から聞いたのと大体同じだったよ。」
「そっか・・。その、一緒にいた女の人については?」
「俺らにも言えないって。」
ふー、と要は少し困ったようにため息をつく。
横山くんは要たちにもその女の人の事には
詳しく言えないと伝えたらしい。
ただ、本当にそういうのではない、と言っていたらしく。
「まあ俺は横山がそういうのじゃないっていうなら信じるけどな。」
「・・・うん、私も。」
横山くんは本当にいい人だ。
嘘をつくのも上手じゃなくて、サプライズが下手なのだと
由香ちゃんから話を聞いたことがある。
それに由香ちゃんの事を大切にしているのも見ていて分かる。
そんな横山くんだからこそ、言えない、というのが気にかかるのだ。
「どういう事なんだろう・・。」
私のつぶやきに要も首をかしげる。
由香ちゃんはもちろん横山くんの事も心配だ。
自分に何かできる事はあるだろうか、と考えてみるけど中々思いつかなくて。
ちなみに横山くんが一緒に歩いていた女性は、
『身長が高くて、茶髪の長髪で、由香とは真逆のタイプの人』
らしい。
その友達に言われたという言葉を繰り返す由香ちゃんの
声が震えていたのを思い出して。
また、胸が苦しくなる。
「ただいまー。」
「わ!!びっくりした!」
突然耳元から聞こえてきた声に驚いて大声を出してしまう。
振り向けばそこに立っていたのは鈴香さんで。
鈴香さんも私の大声に驚いて飛び跳ねる。
「ちょ!びっくりしたのはこっちよ!」
「すいません・・。おかえりなさい、今日は早いんですね。」
「会議が一つ無くなったのよー。」
はあ、と一つため息をついてスーツ姿のまま椅子に腰かける。
「要くんは?」
「・・あれ?さっきまでいたのに。」
鈴香さんに言われて横を見れば、
さっきまでお米を研いでいたはずの要がいなくなっていた。
・・全然気づかなかった、トイレかな。
鈴香さんは座ったまま一度大きな伸びをした後、
立ち上がって私の手元を覗く。
そしてよーし、と顔を上げた。
「久々に早く帰って来れたし!私も何か手伝うわね。」
「いいですよ!お仕事で疲れてるのに。」
「大丈夫よ。着替えだけしてきちゃおっと。」
そう言って鈴香さんはドアに手をかけてから、
あ、と何かを思い出したのか振り向く。
「要くんって甘いの苦手だったっけ?」
「いや、そんなことないと思いますよ。」
なんでですか、と尋ねれば鈴香さんは笑って。
「パティシエの友達がいるんだけど、近々誕生日の子がいるって話をしたら
是非新作の試食をお願いしたいって。ホールケーキをくれるっていうのよ。」
「へー・・・・・あ。」
「その顔は忘れてたわね。」
「・・えへ。」
私の返答に鈴香さんは呆れ顔。
そうだ、そういえば要の誕生日が近づいていたのだ。
完全に忘れていた。危ない危ない。
記憶力は悪い方ではないと思うのだが、
人の誕生日を覚えるのはなぜかとても苦手で。
「じゃあケーキはその子から頂いておく事にするわ。」
「分かりました、ありがとうございます。」
すぐ着替えてきちゃうわね、
と鈴香さんは台所を後にする。
1人になった台所で、
結局頭の中に浮かんでくるのは由香ちゃんたちの事。
「・・・私に何が出来るんだろう。」
ポツン、とこぼした独り言。
当然返事は返ってこなかった。




