川辺の家より 3話
つなぎ作業着の少女は、吉川香菜ちゃん十一歳だそうだ。
目がクリクリとして、髪をポニーテールにしていてとても可愛らしい。
普段はお父さんといるそうだが、お父さんは時々燃料の仕入れに出かけるので、その間は一人になるそうだ。
寂しくない?、怖くない?と聞くと、もう慣れたそうで、それに、ここを休むと沢山の人が困るからと言った。
それを聞いて思わずウルッときてしまった、決して歳のせいではない。
香菜ちゃんが心配そうにどうしたのか聞いてきたが、目にゴミが入ったからとベタに誤魔化した。
それより、お・姉・ち・ゃ・ん・は大丈夫だよ。と訂正したことに驚いていたように見えたが気のせいだと思う。
お店の場所を聞くとやはりこの先にあると教えてくれた。
「住宅商店街ですね。」
?・・・、頭の上にクエスチョンマークを出しているわたしを見て香菜ちゃんはニッコリして、楽しいですよと言って送り出してくれた。
暫く代わり映えの無い道路を走り右にカーブすると目の前にアーチ型看板が見えそこには「ひまわり商店街」と七色で書かれてあった。
脇の駐車場にスクーターを止めて入り口へ向かい商店街地図を見る。
「あー、なるほど。」
わたしは香菜ちゃんが住宅商店街と言ったことに納得する。
地図は綺麗に碁盤の目のようになっている。
つまり住宅街をそのまま商店街としたんだ。
中に入ると各家の玄関前に屋台のようなものを出している。
本当に色々な物が売っている、実家のある街にそんなにひけをとらないぐらいだ。
一通り見て回ってから食料品と日用消耗品を買って帰ることにする。
帰り道、ガソリンスタンドに寄ってクラクションを一回鳴らす。
ドアが少し開いて香菜ちゃんが顔を出す。
ヨシヨシ、一応用心はしているようだ。
わたしが手に持ったオレンジジュースの缶を振ると駆けて出てきた。
なにげに左手にバットを持ったままなのはご愛嬌。
パラソル下の椅子に二人並んで座り缶ジュースを飲む。
道路をはさんだ向こう側は一面の草原、そして真っ赤な空。
さっき軽トラが通り過ぎた後は一台も通らない。
香菜ちゃんが小さな声で歌を口ずさみ始めた。
あ、この歌小さい頃習ったな。
妹の綾も歌っていたのを聞いたことがある。
そう、確か・・・、・・・、・・・。
そして、いつの間にか香菜ちゃんと二人で大きな声で歌っていた。
高く伸びた雑草が風に吹かれて、歌に合わせて踊っているように見えた。
三話 買い物 おわり