070:光珠をその手に②
ユニスは白炎大佐の一行が、脱出口を開けるのを透視で見守っていた。彼らはあと少しで外に出る。
次はユニスと晶斗だ。
晶斗は約束通り、ランと決闘した場が見えなくなる位置まで移動し、ユニスが迎えに行くのを待っている。
「晶斗ーッ!」
ユニスは、光が満ちる空間を駆け降り、途中からはほぼ垂直に落下した。
あ、勢いが止まらない。――ま、いいか。あとは真下に行くだけだし。
確実に晶斗を捉えられるように、両手を広げる。この猛スピードとタイミングは、晶斗は予想もしていないはず。
ユニスの呼びかけに気付いた晶斗は上を向いた。両腕を広げて待ち受けている。
あ、角度がまずい。このままだと正面衝突してしまう。
ユニスは両手を大きく広げた。
「ぐぇほっ!!」
晶斗の喉元に、ユニスは左二の腕を水平にぶち当てた。そのまま左腕を晶斗の首に巻き付けて引き倒し、共に下へと落ちていく。
二人でゴウゴウと風を切ること、ほんの5秒。
「着地ーっ! ね、速かったでしょ。残り時間は……」
ユニスは晶斗の左手首を掴み上げ、バングルに表示されたカウントを読んだ。
「あと6分30秒! わたしって、天才!……晶斗?」
ユニスは、見えない地にベタッと伏せている晶斗を見下ろした。
左手をユニスに引っ張られて大の字にへばっていた晶斗は、ややあって、むっくり身を起こすと、その場にあぐらをかいた。
「……そーか。あのテストの時のあれも、ラリアットだったんだなー。こいつ、こういう性格なんだ。期待した俺が馬鹿だった――――」
呟く晶斗の、俯いた様子がどこか侘しい。
「どうしたのよ、しょんぼりして。上手くいったのよ?」
ユニスがようやく左手を放すと、晶斗は、ヨイショ、と、やけにだるそうに立ち上がった。
「いや、慌てて手を出さなくてよかった、と思ってさ…………で、守備は?」
「ラディウスならここよ? ほら」
じゃーん!、と、ユニスは空中に手を一振りした。するとその空中から、あたかも薄皮がめくれるように、淡い光の幕がペロンとめくれてひらひらと剥がれ落ち、輝く珠が出現した。光珠だ。
気を取り直した晶斗も、にやりと笑う。
「考えたよな。空間の異相を利用して目隠しにするとはね」
シェイナーは空間の理を操る。眼に見えぬ路を開き、自分の周りの空間に、ポケットみたいな収納場所も作り出す。壁のような物質はそう簡単には動かせないが、見えない次元と空間の捜査ならお手のものだ。
ユニスはこの迷図のラディウスを視つけた。そして、その周囲を、壁と化していく光の襞、つまりこの迷図の中で半物質化しつつある空間で囲っておいたのだ。
「でも、あいつら、変わったセンサーを持ってるだろ。よくあっさり信じたな」
「この迷図のラディウスは、もともと気配まで迷図に融け込んでいるもの。でも、もう一つのラディウスは、晶斗のテストの時に手に入れたやつよ。余所ものだから、異質に輝いて、夜空の太陽のごとき異彩を放ったってわけ」
あれも本物のラディウスには違いない。ラディウスは元来、隠されている迷図と同じ性質だ。だから、他の迷図から取ってきたラディウスの性質は、この迷宮とは違いすぎて、どんな探査装置にも探知された。
ユニスは、顔の前で輝く珠に、手をかざした。
「あと、4分50秒」
晶斗がカウントダウンを始めた。
ユニスは珠に視点をすえた。シェインの目で透視しているのは、こことは別の景色だ。白炎大佐達は、あと数メートルで迷図の外に出るところまで進んだ。
「最後の壁をこじ開けてるわ。もうすぐよ」
目はラディウスを見つめたまま、ユニスは晶斗に左手を差し出した。その手を晶斗がしっかり掴む。
「3、2、1……あの人達が迷図を出たわ!」
ユニスはラディウスを取った。
黎明にも似た薄明るい空に一条の黒い線。ヒビ割れだ。
そして、迷図の崩壊が始まった。




