068:剣の決闘は
「来たな」
通路よりは少し開けた場所で、晶斗はレンズを額に押し上げた。
もう空間を解析して視る必要はない。足の下は淡い黄金の地と化し、光の空間は虹色に輝く広場となった。天上は、青地に金と銀を散りばめたモザイク画さながらだ。その周りをオーロラのカーテンが取り囲む。
「おーい、ほかの奴は?」
晶斗が呼びかけた。メイレ・ランは広場になっている空間の入り口で止まった。
「そっちこそ、シェイナーの女の子はどうした? 振られたか」
「さあね」
とぼける晶斗に、ランは酷薄な笑い声をあげた。
「ははっ、目的は同じか。しかし、俺はラディウスより、その白いナイフに興味があるんだ」
晶斗は目の端で、左手首に表示されたカウントダウンを読んだ。あと一三分。
「しつこいな、あんたも。売るわけないだろーがッ!」
ランは手を腰の後ろに回した。
「時間がないんだ。手加減はせん」
取り出したのは、手のひらより少し長い銀色の棒だ。一振りした。棒の先から赤い光が伸びる。輝く真紅のレーザー光。太さは指二本分くらい、長さ五十センチほどの光線だ。
「これはナイフでは止まらないぞ」
「レーザー剣か。サイメスの最新兵器だな」
左胸の鞘から、晶斗はガードナイフを抜いた。神の骨の武器。ルーンゴーストの理律の結晶。主の意のままに大きさを変える白い刃を、レーザーソードに等しい長さに変化させる。
「ほう、やるか。いくら硬い金属でも、融解点を越える超高温には耐えられまい」
「やってみようぜ」
晶斗が跳んだ。真っ向から白い剣を振り下ろす。
赤い火花が派手に散った。目もくらむ閃光が、つかの間の視力を奪う。
「馬鹿なっ!」
メイレ・ランは叫んだ。なぎ払い、焼き切れたはずの白い剣が、真紅のレーザー光を受け止めているのだ。白い刃と紅の光刃が押し合う。ぎりぎりのバランスだ。張り詰めた腕の筋肉が細かい痙攣を起こし、刃先までが震えた。食いしばる歯がギリリと軋み、
「おい、声も出ないか。ダイヤを焼き切る光を止められるはずはないって? じつは俺も半信半疑だったが、こいつはな、ディバインボーンズ、神々の骨だ。この世界とはまるで位相の違う物質なんだよ」
白い剣が、紅に染まりゆく。
一瞬、勝利の笑みを浮かべかけたランの顔が、はげしい驚愕に歪んだ。
レーザーの熱ではない。白い剣がエネルギーを吸収しているのだ。
せめぎ合う白と紅の接点が、赤銅色に輝いた。爆発に似た反動が二人を吹き飛ばす。
赤いハレーションが収まったとき、晶斗の剣は元通り白く、レーザーソードは二度と使えなくなっていた。




