067:光珠を求めよ
「いたぜ、あっちにも俺が見えるかな?」
晶斗の立ち位置から、真上の方向に、人間の頭が四つ見える。晶斗からすれば、ちょうど上から人を見下ろした角度だ。
晶斗の声はユニスには聞こえるが、ユニスからは晶斗に返事が届かない。そこで声の代わりに、晶斗の前で光をチカチカッと、点滅させた。蹴砂から聖都に行く列車の中で、結界を張る際に、ユニスのシェインの光を晶斗は見ている。同じ色した光の点滅を見て、晶斗は理解した表情でうなずいた。
と、光の明滅が注意を引いたのか、四つの頭がせわしなく動き出した。
「あー、あんなところだっ!」
いきなり反っくり返ったクリトが叫んだ。センサーで感知したのだろう。彼らから見れば、晶斗が居るのは0時の方向、彼らの頭の真上なのだ。晶斗の方が逆立ちしているようなもの。
晶斗は白炎大佐へ、ヒラヒラと右手を振った。あからさまな挑発だ。それから右斜め下へ向かって走り出す。
「なんだ、あいつ、下に落ちてんの?」
ミッシュがセンサーを上に向けている。晶斗を追跡しているらしい。
「あっちは、あれで重力方向が正しいんだ。よく見ろ、あいつは空間の歪みを視るレンズをかけてる」
「で、大佐としては、あいつのことはどうする気なのさ?」
「女の子がいないな。別行動を取ったか。ラン、相手をしてやれ」
「了解」
「ただし、ディバインボーンズよりも優先すべきはラディウスだ。全員、現在地をマークして時計を合わせろ。合図したら、すぐに戻れ」
ランは晶斗の方へ走って行った。白炎大佐から十メートルほど離れたら、ふいにランの姿は消えた。
クリトが大きく息を吸い込み、一息に吐き出した。
「移動は一瞬だな。これが空間の異相か。センサーの範囲からも消えてる。今はたぶん、数キロ先だ」
「あ、それじゃ無理だわ。これ索敵範囲が狭いんだ。予算ぎりぎりで作ったから、出力を空間干渉に取られるんだなー」
大佐とクリトが、怪訝そうな目をミッシュ・ルイに向けた。
「ミッシュ、今の言い方だと、もう少し高価な部品を使えば、いいものができたように聞こえるけど?」
「そーだよ?」
あっけらかんとした返事に、クリトの顔色が青ざめた。
「こ、このじーさん、いつもは予算なんて百年前の人工衛星で宇宙の彼方へ打ち上げたと豪語して必要以上の経費をぶんどっているくせに、どうして命に関わる装置の製作に限って、常識的な金銭感覚を発揮しようとする?」
クリトの握りしめた拳がぶるぶると震えている。今にもミッシュに殴りかかりそうなクリトの左肩に、白炎大佐の右手が置かれた。
「クリト、あきらめろ、言っても疲れるだけだ。こいつが百年前から筋金入りの狂科学者なのを忘れていた俺たちが悪い。それより、ラディウスだ」
二人にけなされても平然としていたミッシュだが、パッと表情が明るくなった。
「お、三時の方向にエネルギー反応! ランがヤツを追っていったのとは逆だ。初めて見る波長だよ。すごい……ものすごい、エネルギーの塊がある!?」
ミッシュの声色がガラリと変わった。
真剣な科学者のそれに。
「これがラディウスなのか。白炎大佐、これだけ莫大なエネルギー反応なんだ、旧時代の核融合炉とかの間違いじゃないだろうな。あんた、いったいここで何を探してるんだよ?」
「この前、資料を渡しただろう」
「馬鹿にするなッ。僕はミッシュ・ルイだぞ、外交ルートの指令書なんて、かったるいものは読まないんだ!」
ミッシュの堂堂たる申し開きに、クリトは両手で顔を覆った。
「迷宮と遺跡を構成する核だ。その小さな、ボールのような形の塊が、この巨大な遺跡をすべて作り上げているエネルギーの源だそうだ。ルーンゴーストでも東邦郡とフェルゴモールに一個づつしかない。大陸をあげて研究中の、未知の物質だ」
白炎大佐は諦めた表情で説明した。
ミッシュはちょいと顎を上向け、へーえ、といささか大げさに感嘆してみせた。
「そーれーが、ラディウスか! なるほど、本国の馬鹿どもが欲しがりそうなアイテムだね。誰が研究するんだろー?」
「どうせ、おじいちゃんだろ。中央でシェインの研究もしてるの、おじいちゃんくらいだし」
身内の冷静なつっこみに、年長者の鉄拳がポカリと一発くだされた。
「おにいちゃんと呼べってば。で、あの娘はどうすんのさ。連れて帰るの?クリト、お前が気に入ってるって言ってたっけ?」
「お嬢さんか。貴重なシェイナーだが、帰還者ともども連れ出すのは無理だ。ラディウスを手に入れて脱出する。あとは捨て置く。急げ!」
白炎大佐とクリトが走り出す。
ミッシュだけがセンサーを眺めながら、少し出遅れた。
「何もなかったところに突然大きな反応が現れたのが、ちょっと気になるけど……ま、何かが『ある』ならいいかな」
その呟きは、仲間の耳には聞こえなかった。
ちょうど注意を逸らしたユニスのシェインにも、捉えることはできなかった。




