066:光珠を欲すれば
「さて、あの人たちの正確な位置は……」
ユニスはシェインの目の焦点を絞り込んだ。
迷図の中の、茫漠と光の満ちる空間に、ユニスが初めて見る奇妙な歪みの名残をまつわりつかせた人間がいる。白炎大佐の一行だ。
彼らがここまで来るには、急いでも五分くらいはかかるだろう。
「忌ま忌ましい歪みだ。ラディウスはどこにあるんだ?」
白炎大佐は光の満ちる空間を眺めて、眉を不愉快そうにしかめた。
「重力は外界の三分の一、次元と空間はもつれているときた。しかも刻一刻と変化までしてるんだ。こんな所、人間の居られる場所じゃない。ぼくは宇宙ステーションの方がマシだね。少なくとも、足が落ち着く」
ミッシュが天を仰いだ。蒼い上空は黎明を想起させる。だが、それは青い鉱物の結晶めいた煌めきなのだ。
「それでも、迷図の中のラディウスの位置は変わるまい。特定できるか? 最短ルートを探せ」
「無理だって!」
クリトが横で両手を上げた。
「ここに入れたのだって、偶然の幸運なんだ。確かに、この迷図の空間のどこかに、あいつらの生体反応はあったよ。でも移動が速すぎて位置を追いきれないんだ。ランの端末が在れば出力はもう少し強くなるけど、これがこの装置の限界だ」
「ランはどこだ?」
「そういや、迷図の入り口に来る頃だな。あ、来た! ラン、そこから入って来い、こっちだ」
数秒後、メイレ・ランが一行に合流した。ランは白炎大佐にサッと敬礼した。
「実体化まであと二十三分しかありません。外の連中は撤退しました」
「ミッシュのデータ取りは終わった。迷図のラディウスを手に入れたらこっちも撤退するさ。迷図の入り口と遺跡の出入口は両方ともマーキングしてある。空間干渉機があるから、脱出は五分とかからん」
白炎大佐は淡淡と説明した。
「なるほど、あいつらもここにいますか?」
「ああ、どこかにね。近くても遠いし、見えなくてもすぐ近くかも知れない。生体反応はあるけど、かなりのスピードで移動しているのか、位置が特定できないんだ」
ランの疑問には、ミッシュが応えた。
「なら、先にラディウスにたどり着いた方が勝ちだな。どこにあるんだ?」
「だから、今から探すところなんだよ」
「さっさとしろ」
ランと白炎大佐に睨まれたミッシュは、苦い顔つきでセンサーを調整し始めた。
「あの人たちはまだ遠いわ。わたしたちの方は、ここよ」
ユニスは足元を指さした。
踏めば広がる金の波紋は、一歩ごとに結晶化し、晶斗の目にも見える確かな平面となった。二人が来た道は金色になって残るのだ。本来なら時間とともに消え去る不確定な空間が、迷宮の通路に似た路を形成していく。
しかし、よくよく見ると、それらの通路は所所で、唐突に断ち切られていることがある。曲がり角の見え方ではない。そこにある空間の異相の角度だ。迷図の空間は、複雑な階層を構成している。例えていうなら、二階の見える階段を一段上れば、いきなり十階につくような場所が在るのだ。
「おーし、ここはマークしたぞ。残り二十二分。君の脱出のリミットは?」
「わたしと晶斗だけなら、三分で遺跡の外まで出られるわ。遺跡が実体化するところは見たことがないけど、崩壊する遺跡は何も物質化しないはずだから、下の村にも被害は出ないわ」
「あいつらが脱出に要する時間は、おそらく五分だ。逆算して、俺たちの猶予は八分強だな」
「それだけあれば余裕よ。あの人たちが迷図の崩壊に巻き込まれないなら、安心してやれるわ!」
次にユニスは薄い空色の、結晶きらめく宇宙の一点を晶斗に指し示した。
「あそこよ」
ユニスの指示に晶斗はうなずき、その場で軽く地を蹴った。垂直に跳び上がって、そのまま上へと飛翔していく。
グングンと空間を昇り続けた晶斗が止まったのは、ユニスからは肉眼では直視できない場所だった。




