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ルーンゴースト  作者: ゆめあき千路


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065:光珠に当たるか

 目指す場所まで、それから五分もかからなかった。

 他と変わらず、目印も何も無い場所で、ユニスは淡淡とした光に満ちた空中を指差した。

「ラディウスはあの辺りよ。まっすぐに行ければ、十メートルも無い場所にあるはずだわ。あれを取れば迷宮は崩壊する、けど…………」

「あいつらは脱出できるか?」

「それなのよね。あの人たちには無理だわ。どう考えても脱出までの時間が無いもの。といって、黙って逃げることはできないし、あの人たちにラディウスを渡すわけにもいかないわ」


「じゃあさ、君の代わりに、俺が取ろうか?」


 晶斗の申し出の意味に気付くには、ユニスは少しだけ考える時間が必要だった。

彼は護衛戦闘士だ。雇用主を護る契約には戦闘行為も入っている。

 迷図の核たるラディウスを取り去れば、内も外も、遺跡は崩壊する。それ以前に内側の迷図が壊れれば、中にいる人間は崩壊する異次元空間に巻き込まれ、確実に死ぬ。

 ユニスがラディウスを取れば、否応なしにそうなる結果とその責任を、晶斗がユニスの代わりに引き受けると申し出てくれている――――。


「だめよ、そんなの。いくら貴重な宝物でも、人の命と引き替えになんて、できない!」

 真剣に答えるユニスに、晶斗の表情が(やわ)らいだ。なぜか嬉しそうに、微笑(わら)った。

「じゃあ、君がラディウスを取ったとして、あいつらも連れて脱出できるか?」

 口調も心なしか優しい。

 ユニスはちょっと考えてから返事した。

「そのためには、わたしの側にいてもらわないといけないのよね。……あの人たちは、ラディウスが欲しいのよね?」

 興奮したら、ユニスは目尻に涙が滲んだ。晶斗が妙に優しい目でじっとこっちをを見ているので、ユニスは頬が熱くなった。赤くなっている顔を見られたくなくて、そっぽを向いて瞬きをする。


「まあ、そうだろうな。ルーンゴースト全域でも、まだ数個しか発見されていない、超レアなお宝だ。この機会に、どんな手段を使っても手に入れたいだろう」

「手に入れたら、わたしたちのことは放っておいて、出て行くかしら?」

「そりゃ、そうするさ。こんな所に長居は無用だ。ところで、この迷図、この前のとはずいぶん雰囲気が違うけど、迷図によって違うものなのか?」


 改めて風景を見回せば、天空の銀河は、砕いた色ガラスで作ったモザイク画が貼り付けてあるようだ。晶斗のテストで入った迷図の、無限を感じさせる宇宙的な空間とは雰囲気が違う。


「ううん、わたしも初めて。そんなに何回も見たことはないけど、ここは何か……空間を構成するバランスが、崩れているのかも」

 ユニスは薄い黄金色の足下を、えい、と踏んでみた。足裏から、光の波紋がワッと広がる。歩いた足跡はきらめきであり、その痕跡が結晶と化していく。まるで星を織り込んだ絨毯(じゅうたん)()かれていくように、二人が通り過ぎた跡に輝く道が残されている。

 常に不安定であるべき異次元の空間に、確かな、肉眼でも見える『地』が形成されつつある。


「実体化が迷図にも及んでいるのね。もうすぐ異空間ではなくなって、物質的な迷宮になるわ」

 ユニスのすぐ左側に、ちらちらと光る透明な薄い膜が降りてきた。

「まるで光のカーテンだわ。これが不透明な壁になるのかしら」

 指先で触れてみた。

 あるか無きかの微妙な感触だ。気を抜けば、チラチラ光る柔らかな布めいた(ひだ)は、指先を透過する。今はまだ、この世ならざる光の粒子と空間だ。

「歪みの視覚化なんだわ。これが完全な壁に実体化すれば、わたしでも、ラディウスの前に立つまでわからなくなってしまうでしょうね」

 ユニスは空いている手で、布のカーテンを引くように、光の薄い幕を引いた。

「あ、動くわ、これ」

 晶斗には触れない。シェイナーの能力ゆえだ。


 ユニスは光の幕をそうっと引っぱり、晶斗の前まで移動させる。すると、晶斗の顔の左半分が、すっぱりと切り取られたように消えた。残された右顔面で、右目が瞬きした。

「左目はユニスが見えない。透明なのに不透明か。変な壁だな」

「というより、薄い位相空間なのよ。屈折(くっせつ)レンズみたいなものね。いま、晶斗の顔の半分は」

 ユニスは透明な襞をつかんだまま、背後を眺めやった。

「あっちにあるわ。もしもわたしがこの手を離して幕が晶斗を完全に(さえぎ)れば、晶斗は立っている場所が移動して、空間移送したように、別の場所に行ってしまうわ」

 光の幕を押しやり、空中にちらちらする金色の残滓(ざんし)を手で払った。

 晶斗は左手首に眼をやった。時計機能のディスプレイの片隅に、遺跡崩壊までのカウントダウンを設定してあるという。

 崩壊までの残り時間は、

「あと、二十四分だ」

 これは、トリエスター教授が、遺跡の構成成分の変質速度の統計から割り出した残り時間だという。状況から見て、精度はほぼ正確だ。

 ユニスはラディウスのある方向から、晶斗の顔へと視線を移した。

「あとで、あの人たちのこと、捕まえられるわよね?」

(おお)せとあらば」

 晶斗の不敵な笑み。けっこうよく似合う。東邦郡一の護衛戦闘士としては、こっちの顔の方が地なのだろう。

「もっとも、宰相閣下が逃がさないと思うけどね。あいつらをここまで追い詰めるために戒厳令まで出したヤツだぜ。とっくにルーンゴースト全土に包囲網を敷いてるはずだ」

「じゃ、耳貸して」

「あとで返せよ」

 ふざける晶斗の耳をぐいとひっぱり、ユニスはある計画を告げた。


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