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ルーンゴースト  作者: ゆめあき千路


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064:迷図を歩けば

「ユニス、何か策はあるのか? なんなら、宰相閣下に連絡するか?」

「うん……でも、プリンスはもう知っているわ。わたしとリンクしているから」

「あいつとリンクだと?」

 晶斗は不穏な声音で繰り返した。

「おい、あの野郎にシェインで何かされたのか。リンクって、今はどういう状態なんだ?」

 不意打ちで鋭く問い詰められたユニスは、「え、あの、この指輪なんだけど、別に危険は無くて――」と素直に指輪の効能を吐いてしまった。


 晶斗には逆効果だった。

 電光石火の早技で晶斗の左手が伸びてきて、ユニスは左手首をガッチリ掴まれ、引っ張られた。

「つまり、何か。この呪いの指輪のせいで、あの野郎のシェインに、ムリヤリ同調させられると?」

 鬼のような形相で目の前に持ってきたユニスの左手の指輪を睨んでいる。

「これが指に付いている限り、あいつは君の行動が全部把握できるし、君のシェインも遠隔捜査で使い放題だ、ってことだよな?」

 晶斗の、ユニスの手首を掴む手に、さらに力が込められた。

「いえ、まあ、はい、あの、そうです。……あの、痛いから!」

 とにかく早く手を離して欲しくて、ユニスは首を上下させた。なんだかユニスがプリンスにとってものすごく都合の良い道具のような言い方をされているが、おおむねその通りだから否定もできない。

 晶斗がチッと舌打ちした。早く指ごと切っておけば……とか、物騒なことを呟いている。

 ユニスは脇の下を冷たい汗が流れた。まさか本気じゃないよね、と思いつつ、つい目が泳いで、晶斗がガードナイフを抜くんじゃないかと晶斗の右手を凝視してしまう。

 やっぱりこれは呪いの指輪だ。プリンスにはキスされそうになったし、晶斗には指ごと切り落とされそうになるし、しっかり不幸を呼びよせている。


「で、こうしている間にも、あいつに何かされているのか?」

 晶斗がやっと手を離してくれた。

 ユニスは左手を引っ込めた。晶斗に掴まれた左手首の皮膚が紅い。時間が経てばアザになる。左手首を右手で掴み、軽く治癒のシェインを掛けた。こんな手の形がわかるようなアザを、万が一にも保安官にでも見られたら、遺跡で暴力沙汰に関わったとか事件に巻き込まれたとか、妙な誤解を招きかねない。

「どちらかというと、わたしの方がプリンスのシェインを利用しているわ。この瞬間も、わたしのシェインだけでは足りない分を、プリンスのシェインから補わせてもらっているの。ここへ入れたのもプリンスのおかげだもの。プリンスは政治的な目的があってのことだけど、けっきょくは、わたしを助けてくれているわ」

 ユニスは複雑な思いを噛みしめた。プリンスを庇う気はさらさら無いが、これも事実だ。


「クソッタレめ。あいつは十年前から嫌いなんだ」

「へ? 十年って言った?」

 空耳だろうか。晶斗がプリンスに会ったのは、ほんの数日前だ。なぜいきなり十年前とか、晶斗の遭難前の時間にまで話が飛ぶのだろう。

 それに晶斗以外からも、最近どこかで同じキイワードを聞かされた気がする。十年前といえば、プリンスもまだ十七、八歳だったから、政治家はしていなかったし、晶斗は東邦郡にいた。二人に接点は無かったはずだ。


「いいか、あいつがこれ以上何かしやがったら……その指輪、何としてでも外すからな」

ユニスの指を切り落とすとは明言しなかったものの、晶斗がどんな外し方を想定しているのかは考えないことにした。

「でも、それは無理……」

 プリンスと晶斗の十年の関係が気になる。でも、訊けない間に晶斗は自分の結論を告げてきた。

「じゃあ、あいつをぶっ殺す。いくら強いシェイナーでも、特別扱いしてもらえると思ったら、大間違いだということを思い知らせてやるさ」

 それで良いか? と訊かれた。

 さすがに良いとはユニスも返せなかった。だいいち晶斗の言い方では、目的が指輪外しから微妙にずれている。

 この指輪に使われているシェインは器物に織り込まれた呪紋だから、プリンスが死んでも解呪はされないのだ。

「この騒動が終わったら、プリンスだって外してくれるわよ。一応、約束はしてくれてるし。お代はラディウスかもしれないけど」

 ユニスは微笑もうとしたが、顔面の筋肉はこわばっていて、つい早口になってしまった。

「ラディウスね。しょーがないな、そいつを先に片付けるか」

 よし、晶斗の思考が指輪から逸れた!

「あっちよ! 行きましょ!」

 ユニスは晶斗をグイグイと引っ張って、不可視の道を走り出した。


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