063:遺跡を歩けば
あ、まずいかも。とユニスはボソリと呟いてしまい、晶斗に不審げな眼差しで見られてしまった。
「今度は何だ」
「わたしたちが入ってきたポイントの壁を、白炎大佐が触っているの。なんでわかったのかしら?」
「ふうん……。遺跡ハンターの勘てやつだな。サイメス人でも、伊達に二十年間、遺跡を発掘していたわけじゃないってことだ。嫌なおっさんだ」
白炎大佐がクシャミをした。
クリトとミッシュが目を丸くする。
「珍しいね、風邪でもひいたの?」
クリトは首を傾げただけだったが、ミッシュは、きっと鬼の攪乱だ、とニヤついた。白炎大佐は、うるさい、とミッシュの頭をポカリと一発殴った。
「宰相閣下の目的は俺たちだが、お嬢さんの探し物は迷図のラディウスだ。この通路を移動していないなら、お嬢さんがいるのはここしかない」
「やだな、この人は。十年ぶりに宰相閣下と御対面したから、積もった恨みが発酵して脳が煮えたんじゃないの。センサーに異次元の反応は無いよ?」
「いいから、やれ! 迷図は迷宮という次元の異相だ。空間干渉機の波長を調整して、走査してみろ。波長を少しずつ変えて、特異点を見つけるんだ」
白炎大佐の指示に従い、今度はミッシュが、腰のパウチから小さな機器を取り出した。それを手首の腕輪にカチリと嵌め込む。
しばらくして、
「おお、ヒットしたっ!」
ミッシュは正面の壁を見上げた。
「確かに、変性した歪みの痕跡がある。迷宮通路とはまた違う波長だ。これが噂の迷図か!」
「すごいね、大佐の野生の勘が大当たりだ。おじいちゃんが負けた!」
ミッシュがクリトの頭に一発ポカリとお見舞いした。
三人の力関係がよくわかるやりとりだ。
視ていたユニスは、ついにぷっと吹き出した。
「かまわんから、こじ開けろ。場所さえ特定できれば、遺跡の壁に穴を開けるのと同じ要領のはずだ。中へ入るぞ」
ミッシュとクリトはそれぞれが持つ二つの装置を連動させた。
音はせず、振動もなく、しかし三人の目の前で、なめらかな壁の一点にポツンと光が点る。その光は徐徐に大きな光の滲みとなり、壁を浸食していく。
クリトがうなった。
「すごい、次元と空間の摩擦が、ここまで発光現象を生み出すなんて」
光の穴は大きくなった。眩しい光が通路に満ちて、通路は白と影の二色に分けられた。
やがて、灰緑色の壁に、眩い光でめくるめくような穴が穿たれた。大人が三人並んで通れるほど、大きな光の入口だ。
「よし、入るぞ!」
大佐はためらうことなく、光の中へ踏み込んだ。
「どうしょう、入って来ちゃった」
ユニスは呆然と虚空を視つめた。
「0時の方向に、生体反応が三つ。確かに人間だ」
晶斗が左腕に目を落とした。腕輪の内側にセンサーの電気刺激の合図があったらしい。センサーのメッセージは、使用者である晶斗がセンサーを見たときに、晶斗の網膜に投影表示されるのだ。
「ついにあいつら、迷図にまで入って来たか――――シェイナー無しですごいな。機械の力だけで迷図に入ってくるとは、恐れ入ったぜ」
晶斗の探査機はシェイン系の最新型だ。空間に干渉する機能も備えているが、単独で迷図を発見し、入るのはかなわない。
それができるのは、ユニスのようなシェイナーだけなのだ。




