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ルーンゴースト  作者: ゆめあき千路


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057:迷宮透視行②

――――晶斗に合流する前に、あの影を調べなくちゃ。

 変な見え方をする影は、迷図の入口かもしれない。

 ユニスは薄ぼんやりしか視えない影に、焦点を合わせようとした。それが、どんなに目を細めても――というのは喩えだが、うまく視えない。時折、距離感まで掴めなくなる。移動しているようだ。

 ひょっとしたら、生き物なのか。人間なら、シェイナーか? 危険な遺跡にわざと入ってくるなんて、頭がどうかしている。

自分のことは棚上げして、ユニスは溜息を吐いた。


 晶斗と、その近くにいるメイレ・ランという男は、ユニスが晶斗にシェインの糸を付けているからか、はっきりと姿まで視える。だが、他の三人は影としか掴めない。移動する謎の影と同様、確認しようとすると焦点が合わないのだ。護衛戦闘士の使う歪み避けの理紋や護符でも持っているのなら、透視されないように防御結界を張っているのかもしれない。

 ユニスがラディウスを取るために遺跡に入ったのは、村では周知の事実だ。それならユニスがラディウスを手に入れたら、影の人人はユニスを狙うはずだ。


「う?」

 急に体が重くなった。

 ユニスはたまらずその場にしゃがみ込んだ。

「なんなのよ、これ」

 まるで遺跡の中から外に出た時みたいだ。胃がギュッと縮むような気分の悪さに耐えて、口中に湧いた唾を飲み込む。何度か経験のある、重力の急な切り替えに付いていけない、嫌~な感覚だ。

「もう、何が起こっているのよ?――――晶斗は?」

 晶斗の様子をはっきり視ようとしたら、壊れたテレビ映像みたいなノイズの乱れしか確認できない。ユニスのシェインの目が妨害されている。

 何者かの敵意にゾッとした瞬間、いきなり透視画像がクリアになった。体も心持ち軽くなる。

 どこかの通路が視える。目線がユニスよりもうんと高い。大きな歩幅、安定した歩き方。この人物のシェインの目に、ユニスはリンクしているのだ。

 これはプリンスの視点だ、とユニスは気付いた。

 あの正体不明の移動する影は、プリンスだった。今、迷宮のどこかにプリンスがいて、シェインの目で視ている!

 

 そして、空中に遊離したプリンスのシェインの目は、ターゲットを捕捉した。


 灰緑色の迷宮の、ユニスから遠く離れた片隅に、フラッターがいた。左手首の、幅広の(ブラツク)腕輪型(バングル)の装置は、晶斗の持っていた物とも似ているが、用途(ようと)は同じでも機能と構造がまるで異なっている。

 サイメスの、科学の結晶だ。


「さーて、と。これで干渉波(かんしようは)は切れた。お嬢さんには影響は与えなかったはずだ」

 フラッターは通路の先を眺め、眼帯型レンズの奥で右目を細めた。ブラックオパールのレンズが不透明に切り替わる。緑のディスプレイに数字の列と波形(はけい)が映った。分析されたのは生命維持に最低限必要な情報だけ。結果が拡大されて網膜(もうまく)に投影され、(またた)きの速度で上方へとスクロールされていく。


「空間に異常は無し。ついでにお嬢さんの生体反応もなしか。やはりこの装置では、三階層を越えると探知はできないな」

 フラッターは五秒足らずで集約された情報を読み終えた。

 彼はハッと顔を上げた。何かの気配を感じたように、手首のセンサーを凝視する。機械は何も捉えてはいない。だが、長年の遺跡探索で磨いたフラッターの勘は確かだった。


「ふん、相も変わらず奇妙な気配だ。……まるで死者だな」


 通路の奥の暗闇から、白ずくめの魔物狩人が現れた。目鼻立ちを黒いヴァイザーで隠しているが、艶やかな黒髪に縁取られた整った輪郭は紛れもないプリンスのもの。シャールーン帝国でも一人しかいないだろう、その美貌。


「これは宰相閣下。妙なところで妙な侵入者に会うもんだ」

 フラッターは薄く笑った。


 プリンスは、フラッターの一〇歩ほど手前で止まった。剣の間合いに入る、ギリギリの距離だ。プリンスがここまで近付いても、フラッターのセンサーは生命体の存在を関知しなかった。この空間はプリンスのシェインの支配下にある。


 フラッターの右手が銃床を掴んだ。

 だが、(さび)の効いた銀の声が、フラッターの動きを止めた。


「すぐに遺跡から出て行ってもらおうか」


「そいつはできない相談だ。俺はお嬢さんのボディガードに来たんでね。未踏破の遺跡は物騒だ。あんたみたいな得体の知れ無い男が出やがる」


「気遣いは無用だ、白炎(はくえん)大佐。貴官とは二十年ぶりだな。いや、こうして直接会うのは十年ぶりだ」


「ほう、……セプティリオン殿下に覚えていていただけたとは、光栄な。おっと、動くなよ」

 その手には銃が握られ、銃口はプリンスの眉間を狙っている。フラッター、いや、白炎大佐は乾いた笑い声を立てた。

「あんたは剣の達人らしいが、こいつのスピードにはかなうまい。伝説のヒアデス・クラスの迷宮なぞ、めったにお目にかかれないんでね。俺たちがデータを取り終えるまで、待ってもらおうか」


「貴官らに遺跡内部にいられるのは足手まといだ。だから取り引きしよう、白炎大佐。昨日、空円大使は本国への帰還を決めた。貴官らも速やかに全員撤退したまえ」

 プリンスの提案に、白炎大佐は眉をしかめた。

「そうか。空円のやつ、かわいそうに、どんな脅され方をしたのやら。それで殿下が御自(おんみずか)ら、俺を捕らえに来たというわけですか」

 冷徹だった白炎大佐の声が、空円大使の部分にだけわずかに感情の起伏が感じられた。

「撤退してくれるなら、今日の処は見逃すつもりだが」

「ご冗談を。宰相閣下こそお引き取り願えますかな。俺はユニス嬢の護衛に来ただけでね。あの娘をひとりにはしておけんでしょう」


「余計な血を流さぬためだ。貴官が引けば部下も引く。君が野獣(セリオン)、サイメスがシャールーン帝国に送り込んだ諜報(スパイ)団の指揮官だ」

 

 プリンスの言葉に、透視していたユニスは息を呑んだ。大陸間条約締結会議で、プリンスがサイメスの大使団に繰り返し訊ねていた、その正体は、フラッター!?


 フラッターの左目に冷たい光が宿った。

「お互いの嘘はこれまでか。では、こちらも二つ名でお呼びしようか、魔物狩人のバシル殿。いや、あんたは魔凶(まきよう)の騎士バシリスコスだったな。ルーンゴーストの闇社会で、大陸で五指に入る暗殺者(モルデス)どもを次次と返り討ちにした化け物だ。サイレント・キャンダーは十年前にやられている。いかがですかな、セプティリオン殿下?」


「さすがはセリオン、守護聖都の動向に詳しいことだ。ここで十年前の決着を付けたいのか」

 プリンスは微笑した。まるでこの状況を楽しんでいるかのようだ。


「あんたの方こそ、しつこく覚えているじゃないか。おい、動くなって。これは最新のレーザー銃じゃない。迷宮の歪みの影響を受けない、鉛弾(なまりだま)を発射するタイプだ。おっと、シェインも使えないぞ。俺たちは歪みをコントロールする装置を開発して、今も使っている。それでシェイナーの力も中和され……」

 白炎大佐とプリンスの間で、風景がぼやけた。熱された空気を挟んで見るような景色だった。

 それが歪みだと気付いた彼の指が()(リガー)を引くまで〇.三秒。灰緑の高い天井に銃声が鳴り響いた。わずかな焦りが白炎大佐の手元をブレさせ、銃弾は標的を大きく外れた。

 プリンスは身を(ひるがえ)し、白炎大佐はその後を追って行った。


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