056:迷宮透視行①
晶斗の気配に、ユニスは止まって後ろを振り向いた。
「嘘でしょ、どうして入って来たの!?」
だめだ、放っておけない。ユニスは透視にシェインを集中した。
晶斗のいる門のある階層は、遺跡の中心辺りだ。
だが、ユニスがいる通路は下層近く。シェイナーであるユニスの周囲に歪みは発生していないが、他は違う。実態化しそうなほど不安定な遺跡は、内部にも異常な歪みを次次と発生させている。
ユニスが通過して固定化になった場所さえ、安定したのもわずかな間で、新たに発生した歪みが漂い始める始末だ。
晶斗はユニスを見つけるまで、遺跡を脱出しないだろう。
ユニスがすぐに晶斗の処まで移動して、合流する方がベストだ。
でも、これ以上巻き込んだら、危険なだけでは済まなくなる。
万が一の場合、晶斗は東邦郡に帰れなくなるかもしれない。
「……あれ?」
晶斗を視るため、シェインの目を拡大した。
よけいなものまで視えてしまった。
ユニスは透視のために半眼にしていた目を、大きく開けた。
「なんで、この期に及んで、入っている人が増えるのよ!?」
晶斗の近くに一人、そして、かなり離れた下層のユニスに近い方に、一、二、三人の、合計四人。
そして、よく視えない影らしきものが一つ、三人がいる方へ近づいていく。
「晶斗だけじゃないわ、どうしよう。ああ、もう、この遺跡の迷図って、どこにあるのよ」
ユニスは晶斗と合流する決意がつかないまま、迷図を探すために透視にすべてのシェインを注ぎ込んだ。
迷宮の中で、門は壁に白く抜けていた。その長方形の光を背に、黒ずくめの男メイレ・ランは、晶斗の前に立ちはだかった。
「俺に何の用があるってんだ?」
「悪いが、また相手になってくれよ」
メイレ・ランは、流れるような動作で腰の短剣二本を引き抜いた。
至近距離からの投擲だ!
間髪入れず、キンッと高い金属音が響き、晶斗の眼前で金色の火花が散った。
晶斗は、長さ三十センチほどの片刃の白い小剣を構えていた。ナックルガード付きのグリップも刃部分と同じ材質で真っ白だ。
対するメイレ・ランは、次の短剣をベルトから引き抜いた。その視線は晶斗の持つ白い刃に注がれている。
飛来した鋼の短剣二本を一薙ぎで落としたのは晶斗の技もあろうが、火花の散るほどの衝撃に、白い剣は刃こぼれひとつ生じなかった。瞬く間に間合いを詰めた晶斗は、白い剣の切っ先を、メイレ・ランへ突きつけた。
「俺と殺し合いでもしたいのか」
白い剣の刃先が伸びる。わずか数センチの成長、だが、あり得ざる物理現象に、メイレ・ランの黒いヴァイザーの奥の目が瞠られた。
「すごい特殊鋼だな、それは。ルーンゴーストには不思議なものがある」
「サイメスへの土産にでもする気か」
「良い勘だ。わかっているなら話は早い」
メイレ・ランの唇の両端が、きゅっと吊り上がり、腰の後ろからガードナイフが抜かれた。
「その剣と帰還者は貴重品だ。丁寧に梱包して、ブローザの海峡を渡ってやるさ」
「やっぱり、あんたもフラッターも、サイメスのスパイかよ。俺に正体がバレてもかまわんところを見ると、守護聖都で何かあったな」
晶斗は右手前で剣をぶん回した。ひゅんひゅんと風を切る鋭い音が途切れなく続き、空中で描いているのは横向きの8の字だ。
「どっちにしろ、これは譲らないからあきらめろ」
晶斗の手が剣の回転を止めたのと、右側の壁に肩から体当たりしたのは、ほぼ同時だった。
等身大の円形に切り抜かれた壁が向こう側へ落ちる。
晶斗は剣を持って向こうへ飛び込んだ。
そこで再度、剣を振るった。
三振りで床に三角形が切り抜かれる。
床の切り込んだ三角形の中心に晶斗が片足を着地すると、踏まれた三角形は、すい、と沈下した。
「おい、待てッ! その剣を置いていけよ!」
メイレ・ランが穴から覗く前に、晶斗は一階層下の通路を走り去っていた。




