055:ヒアデス・クラス⑩
ユニスが独りで遺跡の中に戻った、と晶斗はトリエスター教授に報告した。
「む、さては、一人でやる気か。サポートしようにも、こっちの事態は悪化したぞ。歪みで鈎が外れたからな」
はずれたロープは、遺跡の入口下の地面に落ちていた。
遺跡の入口に接していた建物の、三階屋根の窓の下方がチラチラ光る。空中には平面上に広がるガラスの結晶めいた反射光が見える。その中心に、長方形の門が浮かび上がった。
「入り口はさらに降下した。実体化が始まったんだ。今から四〇分後、ここを中心に直径五〇キロが遺跡に押しつぶされるだろう」
教授は、静かな周囲を見渡した。
「村の人たちは向こうに集まっている。すぐに黄砂都市から救出隊が来るはずだ。あ、おい、どこへ行く?」
晶斗はマックス保安官の方へ走った。
いつのまにかフラッターがいない。機材はあったが、彼の発掘団員もいなくなっている。
晶斗は村長と話しているマックス保安官を見つけた。
「え、ラクスかい? そういえばどこかな?」
首を傾げるマックス保安官は、遺跡から出てきたフラッターとは喋っていないと言った。
晶斗は巡らせた視線を道の一角で留めた。
黒いヴァイザーをつけた黒ずくめの男が片手を挙げて挨拶した。そして、サッと路地に入った。
「おい、待て、お前は確か蹴砂の遺跡で……」
晶斗が急いで追って路地を覗けば、黒ずくめの男は右側の建物の壁に背中をもたれさせていた。
晶斗の肩越しにマックス保安官が覗き込む。
「なんだ、メイレ・ランじゃないか。彼も護衛戦闘士だよ。たまに悪ふざけをするが良いヤツだ。何があったか知らんが、俺の顔に免じて許してやってくれないか」
大きな手で晶斗の肩を叩いた。
「そーかい、そういうことなら、俺の邪魔をしないように、あんたがこいつを見張っててくれ」
晶斗はトリエスター教授の所へ戻ろ、もう一度、遺跡に入りたいと申し出た。
トリエスター教授は、だめだ、と一喝した。
「ここに居る者は全員避難だ。ユニス君ならラディウスを取ったら出てくる。今から中に入っても、君が彼女を見つける前に遺跡は崩壊するぞ」
晶斗は路地の方をちらっと見た。
「あの、マックス保安官の知り合いという護衛戦闘士が、蹴砂の遺跡で俺を襲ったブローザの海賊だよ。フラッターもだ。奴ら、別の入り口から中に入ってるぞ」
「なんだって!? ここらは見張っていたぞ。どこから入ったんだ」
トリエスター教授は門を見上げた。
「こんな状態の遺跡へ、通常の門以外の出入り口を作るとなると、そこらのシェイナーではできまいが……。何人入っているのか……」
「推理はいいから、オレを迷宮に入れてくれ」
民家の壁に立てかけてあった脚立を一つ、学生が持ってきた。避難勧告を出した時点で、組みかけた足場を放棄したのだ。門の下に脚立を置き、最上段に立つと、上半身が門に入った。
トリエスター教授は両手を口の脇に当てた。
「気をつけろ、我々も、もう避難するからな」
門から顔だけ出した晶斗の返事は、軽快だった。
「いいさ、俺はユニスを見つける」
タタッと足音が、トリエスター教授の横を駆け抜けた。
マックス保安官が「あ、おい、こら待て!」と叫び、機材を片付けていた人々が振り向く。
メイレ・ランが脚立をすばやく昇り、あっという間に門の内側へ消えた。




