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ルーンゴースト  作者: ゆめあき千路


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053:ヒアデス・クラス⑧

「そういえば、神聖宮でも同じ事を言われたような…………」

 ユニスは記憶を手繰った。


 神聖宮で世界の迷図を破壊する前に、テキストという小さな迷宮を一瞬で踏破し、核であるラディウスを取った。あれはイメージで構成された疑似遺跡のシミュレーションだったのだ。

――――これはテキストです。

 あのとき、プリンスはそう言った。


 遺跡の構造パターンには基本がある。それが『世界の迷図』、すなわち、すべての迷図の基本形だ。テキストによって強制インプットされたのは、様様な遺跡の構造パターンを解読するマスターキーのような『感覚』だった。


「あの時は、走らずに踏破して、ラディウスを取れたのよね。けっきょく、世界の迷図は壊れたけど。同じ方法で、できるのかしら?」

 ユニスは目を閉じた。


「で、ユニス、どうするんだ?」

「集中して、透視して、見つけるつもりだけど…………うまくいっても、この前のテキストみたいになるかもしれないから、脱出する準備は必要ね」

 目を閉じたまま、ユニスは言葉尻を濁した。フラッターのいる前で世界の迷図破壊に関わった件を口に出すことはできない。

「ああ、あれか、例のシェインのテキストだな。……わかった。で、俺たちに何かサポートできることは?」

 ありがたいことに、晶斗には『テキスト』の意味が通じた。神聖宮でのプリンスの説明を覚えていてくれたのだ。

「思い付かないから、とりあえずここで待機。あとは、すぐに逃げる準備だけしておいて。わたしもシェインでサポートするけど、万が一に備えてて」

「了解」

 あっさり納得した晶斗に、フラッターが「良いのか?」と不信感をあらわに眉をひそめている。

「良いんだ、俺たちはコンビだから」

 すごいだろ、とニヤニヤしている表情が見なくてもわかるような優越感に満ちた晶斗の声だった。


――――晶斗ってば、何を自慢しているのかしら。

 ユニスはかまわず集中した。強制インプットされた知識は記憶の中から引っ張り出せたものの、使い方が今一つわからない。しかし、知識を見直して考えている時間は無い。


――――こうなったら、一から手順を繰り返してみるか。


 世界の迷図に入ったときの感覚を自分の五感に呼び起こす。同時に透視も始める。シェインの目を、自分の真上から見下ろす角度に置いた。そうして、記憶の中のテキストをイメージする。形、雰囲気――――掌に、熱くも冷たくもない、水晶質の感触が呼び起こされると、体の周囲に白い煙のようなものが発生した。


「なんだ、これは? お嬢さんは何をやっているんだ?」

「いいから見てなって、フラッターさんよ」

 眉をひそめるフラッターと、平然としている晶斗。


 白い煙のようなものはユニスの周りに漂い、薄紫に色づくと、瞬時に固まった。

 薄紫のガラスの正八面体(せいはちめんたい)だ。二個のピラミッド型が上下にくっついた形の、黄金色のオーラを放つ疑似遺跡の真ん中に、ユニスはフンワリと浮かんだ。


「これは……世界の迷図か」

 フラッターが呟いた。

 ユニスは一瞬集中を乱した。フラッターの言い方に奇妙な違和感を感じたのだ。ユニスが再現しているのは神聖宮でプリンスに与えられた『テキスト』だが、形も色も『世界の迷図』とそっくりで見分けがつかない。でも世界の迷図はもう無い。ユニスが壊した。神聖宮に安置されていたあのご神体は、シャールーン帝国でも、限られた人間しか目にすることができなかった最高機密。

 フラッターは、どうして一目で世界の迷図とわかったのだろう? いや、それは後で聞けば良い。それより早く遭難者を見つけないと――――。


 ユニスは肉眼で疑似遺跡の中から外を眺めながら、同時に真上から疑似遺跡の中に居る自分の様子を観察した。

――――良い感じ。それから、迷宮の全体を見通すのはどうしたんだっけ?

 頭上に上げた透視の目を、いったん、引き戻す。

 それから目を閉じて、もう一度、透視能力に指示を与える。


 遺跡の全体はこのテキストと同じ形だ。シェインの目でテキストの全域を『視』る。上下左右、三百六十度を一度に見るのは、肉眼では不可能だ。だが、シェインの透視なら、それができる。

 視界が一気に大きくなった。まるで手足が伸びるように、シェインで透視できる視覚範囲が広がって、ユニスは巨大な迷宮全体を中心からぐるりと見回しつつ、同時に、外側のあらゆる角度から見下ろした。


 意識の暗いスクリーンに、取り込んだ遺跡のイメージが浮かび上がる。

 光の線で構成された正八面体の、中心より少し下に三つの人影。それはユニスと晶斗とフラッターだ。遺跡全体の大きさからすれば、砂粒より小さな存在。

 おや? そのずっと下の方、正八面体の底の尖りに近い場所に、別の影がある。

 視覚に集中する――――よし、確認。間違いない、あれも人だ。この遺跡は、下の方で奇妙な歪みがいくつかチラチラしているから、急がないと!


「視つけた!」

 叫んでユニスが目を開けた次の瞬間、体を囲っていた疑似遺跡は崩れて消滅し、ユニスは床に降り立った。髪も肌も、全身がうっすらと薄紫の燐光を放っている。 右横を向いたら、風も無いのに髪がふわりと空中になびいた。

「下よ。行ってくる!」

 ユニスは晶斗とフラッターのいる方へ走った。二人の後ろは壁だ。

「え、おい、あぶないっ……」

 フラッターが止めようと腕をのばし、

 その左腕が、ユニスの胸を水平に横切った。

 空気を切るごとく、ユニスの体を通過したのだ。


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