04:理律使(シェイナー)
「おっほ、ようやく認めたか」
晶斗がニンマリ笑い、ユニスは「あっ」と口を押さえた。
この世界には、世界を構成する不文律がある。
こうすればこうなるという、物質世界における絶対の法則だ。
目に見えぬそれをシャールーン帝国では『理』と言う。そして、理を操る技術が『理律』であり、操る能力者が理律使だ。それは、世界と空間をコントロールできる者への敬称である。ただ、シャールーン帝国では、コトワリツカイというといささか犯罪絡みの語的な意味を含めて使用されることがあった。
「シェイナーはプライドが高いもんな。何か事情があって隠しているんだろうが、俺の方は死活問題でね。で、まともなシェイナーのお嬢さんが、遺跡地帯で何をしてたのかな~っと?」
晶斗はニヤニヤして椅子の背にそっくり返った。
ユニスは両手で頭を抱え、テーブルにうつむいた。
「やられた! …………でも、わたしがシェイナーだったら、どうだっていうの?」
上目遣いに晶斗を睨む。
「ま、遺跡にこっそり一人で入る女の子なんて、どのみちただものじゃないだろうし、しかるべき筋に密告すれば、強制保護される。いや、大人なら、逮捕されるかな」
不意に低くなった晶斗の声音に、ユニスは顔を上げた。
「冗談じゃないわ。さっきからいったい何なの、命の恩人を脅迫するなんて最低だわ」
だが、晶斗は勝ち誇った顔でせせら笑った。
「やっぱり後ろめたいんじゃないか、未成年。ほんとは何歳だよ?」
「なんでそんなにあたしの歳を気にするの。嘘じゃなく、二十歳だってば。……あと半年で」
ユニスが拾得物届けへのサインを渋っていた理由は、名前から故郷に身元を照会されれば、要らないことがいろいろバレるからだ。蹴砂の町に来てからは、保安局には絶対関わるまいと細心の注意を払っていたのに、晶斗を助けたせいで計画がメチャクチャになってしまった!
「やっぱり俺の守備範囲外だったか。ま、いーけど」
晶斗はつまらなそうに目をそらせた。
近所のおばさんグループが、ウエイトレスを呼び止めた。ユニスの方を気にしているようだ。ヒソヒソ話をしている。忙しくテーブル間を行き来するウエイトレスは、通りすがりにさりげなくユニスへ注意を注いでいく。事情を知らない善人によって保安局へ通報されたら、晶斗よりもユニスが困る。
「いいなら、放っておいてよ。あなたが腕の立つ護衛戦闘士なら、仕事はいくらでもあるはずよ。他を当たって」
ユニスが動揺を押し隠してつっぱねると、晶斗は自嘲じみた苦笑を浮かべた。
「だから、俺にも俺の都合があるって言ってるだろうが。さて、君は、俺を雇うか、保安局に通報されるか、二つに一つの選択肢しかないぞ。さあ、どうする?」
ユニスは下唇を噛んだ。上目遣いに晶斗を睨み続ける。
そのまま睨み合うこと約三十秒。
「異議無し。ってことで、今から契約開始だ。よろしく頼むな」
晶斗は右手を差し出した、が、
「ちょっと待って。護衛戦闘士って高給取りよね。どうして、わたしが雇えると思うの」
ユニスは右手を胸の前で左手でぎゅっと握った。
詳しくはないが、護衛戦闘士を遺跡で一ヶ月雇えば、その報酬は、この国の平均的な労働者の年収に相当するらしい。さらに、遺跡に入る危険手当だとか細かいオプションを含めれば、田舎の四人家族が五年は遊んで暮らせる額になると聞いたことがある。
晶斗は真顔になり、出した右手をゆっくり引っ込めた。
「君を見れば一目瞭然じゃないか。ここは、三つ星クラスの老舗ホテルなんだぜ。セキュリティは厳重、でもこんなマイナーなリゾート地で君みたいな可愛い美人が連れも無く、何日も独りでツインルームに滞在しているなんておかしいだろ。理由は一つ、君が遺跡に入るシェイナーで、遺跡で見つけてきたお宝の収納と整理スペースが必要だからだ」
すらすら答える晶斗に、ユニスは唖然と口を開けた。
「なっ、さっき会ったばかりなのに、あたしのこと、どうやって調べたのよッ」
膝に下ろした両手が震えた。動揺を見せてしまった焦りと怒りで顔がカッと熱くなる。初対面で行動から全部バレたのは初めてだ。
「なんだ、その様子だと、まるっきりのド素人だな。俺は護衛戦闘士だといったろ。遺跡に関係した調査は得意なんだよ。じゃあ、この辺で失礼して、先に部屋で一眠りさせてもらうわ」
意気揚々と立つ晶斗に、ユニスは慌てた。




