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ルーンゴースト  作者: ゆめあき千路


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048:ヒアデス・クラス③

 ユニスは両手でプリンスの手首をつかみ、口から引きはがした。

「……っで、どうして、あなたが、ここにいるの?」

 ユニスが黒のヴァイザーをギッと睨むと、プリンスは形良い唇の前に人差し指を立てた。

「この姿の時はバシルと呼んでください。職業は魔物狩人です。くれぐれもお忘れなく」

 ユニスはぐっと唇を噛んで怒りを抑え、三回深呼吸してから口を開いた。


「んじゃ、魔物狩人のバシルさん。守護聖都でお忙しいはずのあなたが、ここで何をなさっているのでしょうか?」


「守護聖都の用事が一段落したので、こちらの調査に来たんです」

「いったい、どうやって? 守護聖都からここまで移動するには飛空艇でも数時間はかかるはずよ」

「帝国各地には、守護聖都の神官と、政府の一部の高官だけが使用できるシェインのトンネルがあるんですよ。あなたには今度教えます」

「いえ、けっこうです。聞いてしまったら、何か代償がものすごく高くつきそうだから、全力で遠慮します。あの三人組は仲間なの?」


「私が代理人を使って、黄砂都市で雇ったプロの遺跡ハンターです。今日は遺跡のデータ収集に来ました。あれで役に立つんですよ。あなたと会った遺跡も、彼らが見つけたんですから」

 プリンスはやけに機嫌が良い。大陸間条約締結会議が目論見通りに運んだからだろうか。

 ユニスは、はったとプリンスを見据えた。


「それは、何の調査? バシルさんは遺跡で何を探しているの。もう、遺跡のロマンじゃごまかされないわよ」


「おや、だめですか。宰相閣下の道楽としては、良い理由だと思ったんですがね」

 残念そうな声とは裏腹に、プリンスの表情は明るい。こちらを見る人目がないのを確かめてから、ユニスの手を引いて建物に挟まれた路地に入る。


「簡単に説明すると、戒厳令を利用して、聖都にいたサイメスのスパイ団を一掃したんです。あなたはもう知っていることですが、これで今度の条約締結会議の方向に、我が国に有利な目処(めど)がつきました」

「それと、わたしと晶斗と、どういう関係があるの?」

「表向きは一切ありません。世界の迷図を破壊した犯人はサイレント・キャンダーです。彼の死亡は守護聖都の公安警察によって確認済みです」


 どうして、プリンスが、有名な殺し屋サイレント・キャンダーのオリジナルナイフを所有し、その生死を知っているのか――――ユニスは()こうとして、怖くなり、やめた。世の中には知らない方が良い事もある。特にプリンスに関してはそうだと、この数日で学んだばかりだ。


「じゃあ、わたしたちはもう、逃げなくてもいいのね」

「しばらく用心する必要はありますが、晶斗が護ってくれるでしょう。あれでも東邦郡(オリエント)天狼(シリウス)の名を()せた、腕利きの護衛戦闘士です」

「晶斗がシリウスとか呼ばれていたのは、十年前の話でしょ。でも、晶斗のことは、保安局に保護された時から知っていたのよね。わたしのことを晶斗に教えようとした理由は、どうして? 危うく、わたしの子ども時代を晶斗に知られるところだったわ」

 プリンスはユニスの反応が意外だとでも言いたげに、顔を少し傾け、

「せっかく詳細な身元調査のファイルをプレゼントしてあげたのに、二人ともまだ読んでいないんですか?」

「あれは、プライバシーの侵害よッ!」

 ユニスの怒りの抗議も意に介さず、

「集めたのは、一般に報道された情報だけですよ。侵害したという根拠は?」

 逆に楽しそうに返されて、ユニスはぐっとつまった。


 蹴砂の町のホテルで、ユニスが受付嬢に渡されたのは、東邦郡で有名だった護衛戦闘士天狼(シリウス)こと晶斗・ヘルクレストの身上調査書だった。少ししか見ていないが、晶斗は野生児(ワイルドボーイ)というさらに別の二つ名と、とても愉快な経歴を持っているらしかった。その晶斗が受け取ったのは、ユニスの調査書のファイルだった。

 それは晶斗が全部を見る前に取り戻して、自分で読んだ。

 全身から恐怖の脂汗(あぶらあせ)がにじむほど詳しい内容だった。

 きっと晶斗の調査書もそうだったのだろう。ホテルの受付前で、ざっと目を通していたときの晶斗は顔面蒼白になっていた。ユニスも似たような表情をしていたと思うが、晶斗のあの気の毒な表情は、今も忘れられない。


「と、とにかく、あんな紙クズは、とっくに処分したわ。ようは腕の立つ護衛戦闘士と、冷凍少女のコンビが欲しかったわけ? 物好きにもほどがあるわね。それで本当の目的は何なの。わたしに何をさせたいの?」

「今日の目的は、最後の調査です。守護聖都で判明したある事実の確認に来ました。あなたには協力していただいていますが、今日はシェインを借りる必要はありません」


「それが終われば、すべて終わるのね」

「ええ、今度こそ。それまであなたは、晶斗から離れないよう、気をつけてください。この町はまだ安全ではありません。それから、この前の事も含めて、私のことは誰にも話さないように」

 プリンスはユニスの左手を取り、指輪に口づけてから、路地の奥に去った。


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