047:ヒアデス・クラス②
トリエスター教授はあれこれ指示を出して忙しく、ユニスも呼ばれた。
「私は全体の指揮を取るから、ここから離れられないんだ。踏破と探険に行くのは君たちだぞ」
「俺もかよ?」
晶斗がギョッとする。
ユニスは天を仰いだ。ここでも何かやらされるとは思っていたが、遺跡の踏破であったかと自分の予測の正しさを評価する。
「ユニス君と一緒に契約しただろうが。あれは本物の雇用契約書だ、嫌とは言わせんぞ」
聖都を出る前、検問に引っ掛かった際の用心に、トリエスター教授に雇われたという証明書類を作ったのだが、実際にこき使われるとは予想外だった。
「未踏破の迷宮には魔物が出るかもしれん。シェイナーが入れば、それだけで歪みも魔物の出現も押さえられるはずだが、ユニス君だけでは心配だろう」
「といったって、こんな急に踏破隊を組めないぞ。他に護衛戦闘士はいないし、いくら優秀なシェイナーが一緒でも、踏破と探索と救助に俺一人は勘弁だぜ」
「うーむ。マックス保安官、人手を集められないか?」
トリエスター教授に呼ばれたマックス保安官は厳しい顔つきで首を横に振った。
「近在で発掘中の連中に声をかければ護衛戦闘士も何人かいるが、集合させるのに時間がかかるぞ。なにせ、この広い遺跡地帯のあちこちの遺跡に散らばっているからな。良くて半日後だ」
「おーい、その話、待ってくれ、俺たちも協力させてもらうぞ」
人垣をかき分け、ラクス・フラッターが現れた。その後ろにオレンジの製服を来た発掘団のメンバーらしき人人が総勢九人。その背には発掘団の赤いロゴが染め抜いてある。
よほど急いで来たのかフラッター以外の全員が息を切らせていた。
「やあ、フラッターさんか。良いのかね、君のチームは別の遺跡を探査中だったんだろう?」
「新しい遺跡に潜れるチャンスを逃せるか。探査と固定なら学術院にも負けない自負があるぞ。この遺跡地帯では二十年の実績だ」
フラッターの精悍な顔つきは、どう見ても三十代半ば。発掘団を率いた活動歴があるならそこそこの年齢だろうが、身のこなしは晶斗に劣らず敏速だ。
「新発見の遺跡の固定は、最優先だ。俺たちは固体化が完了するまで、トリエスター教授の指揮に従う。どうかね、協力させてくれないか。成果の取り分は学術院が六、こちらが四で良い」
フラッターの申し出をトリエスター教授は了承した。そして、二つのチームが使用するコンパスとジャイロの周波数を合わせるよう、カタヤ助教授に指示した。
フラッターが指示すると、発掘団は、カートに積み上げて持参した大量の機材をおろし、梱包を解き始めた。
「あんた、そうは見えないが、護衛戦闘士あがりなんか?」
じろじろと観察する晶斗へ、フラッターは逞しい手を差し出した。
「まあな。よろしく頼む。君たちとはもう少し知り合いになりたいしな」
「こちらこそ、よろしく。ところで、フラッターさん、東邦郡にいたことは?」
「遺跡の発掘ならあるよ。だが、シリウスに会ったことはなかったがね」
「そうだな、護衛戦闘士なんて似たようなもんだしな」
晶斗とフラッターは遺跡の固定化に入るメンバーの選出を相談し始めた。
トリエスター教授と発掘チームは、全員が遺跡に入る準備に気を取られている。
この隙だ。
ユニスはこっそり野次馬の群れに紛れると、人垣をくぐり抜けた。
――――脱出成功。
このままほとぼりが冷めるまでどこかに隠れていれば…………。
「ん?」と、ユニスは前方を睨んだ。
風体の悪い三人組がとことこ歩いて通り過ぎる。
「今のは……?」
遺跡によくいる盗掘者風の男たちだったが、その一人の、もじゃもじゃ髭とガードベストの汚れ具合に見覚えがあった。
向こうはユニスに気付いていない。
だが、最大の衝撃は、続けてすぐにやって来た。
三人組から少し遅れて歩いてきたのは、忘れようもない、白ずくめの魔物狩人ではないか。
ユニスは目を丸くして、彼を指差して確認した。
「プリン」
ス……!?、と言う前に、プリンスの手がすばやくユニスの口を塞いだ。
ユニスが硬直して目をパチクリさせている間に、風体の悪い三人組は、ずっと先に行ってしまった。




