表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルーンゴースト  作者: ゆめあき千路


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/81

038:神の骨製の武器(ディバインボーンズ)

「守護聖都を出るなら方法は一つだ。明日、私は、遺跡の定期調査に行くんだが」

 トリエスター教授は、ふいに口調を改めた。

「行き先は黄砂都市の、南黄砂村(みなみこうさむら)だ。アカデミアと政府の合同研究だから、たとえ戒厳令下でも年間計画に変更はない。移動は軍用機だ。守護聖都の包囲網を抜けるにはこれしかないぞ。一緒に来るかね?」


 トリエスター教授の思いがけない申し出に、晶斗はごくりと唾を飲み込んだ。

「いいのか、俺たちはシャールーン帝国のお尋ね者だぞ?」

 晶斗は訊き直したが、トリエスター教授はうなずいた。

「気になるなら、明日の朝の報道で判断したまえ。あの大公殿下が戦闘服で軍刀を装備していたなら、その場で君たちを処分した方が手っ取り早い解決法だったはずだ。君たちを生かしておきたい特別な理由があるはずだぞ」


 トリエスター教授の説明を聞いた晶斗は、銀の星の光のような冷厳な美貌の騎士だったが、とプリンスの容姿についてやけにロマンチックな感想を呟いた。


「顔に似合わず、物騒なやつなんだな。あいつはユニスを護れと言ったぞ?」


「ふむ。最も重要な問題は、そこにあるのかも知れんな」

「俺たちを重罪人に仕立て上げたんだぜ。百パーセント味方とは思えない」

「だが、君らは生きている。今後の行動はよく考えてから動くことだ」

「言われなくてもそうするさ。まずはこいつからだ」

 晶斗は、ガードベストの左胸に留めたナイフの(さや)の留め金をはずし、テーブルに置いた。

「あんた、確かシェイン研究の大家でもあったよな。これの使い方、わかるか?」

「ナイフの目利(めき)きはせんぞ」


「ディバインボーンズ、神の骨製の武器だよ」


 トリエスター教授の目の色が変わった。

「見せてくれ!」

 ナイフを鞘ごと左手で摑み、右手で柄を掴んで丁寧に鞘から引き抜いた。顔の前に立て、慎重に指先で白い刃をなぞっている。鋼の艶は銀を帯びた白い骨の色。大人の掌より少し長く、片刃の幅は大人の指二本分くらい。ガードナイフの形としては、スタンダードなデザインだ。


「ほう、本物だ。刃も(つば)(つか)も、まさしく神の骨だ。この世で最も硬く鋭いナイフに間違いない。グリップに(めい)があるな。サイレント。ナイフの()か、あるいは持ち主か、制作者名か。どこで手に入れた?」


「大公殿下にもらったんだ。初めは報酬の一部だと言われてたのが、これでユニスを護れときた。だったら、遠慮なく使わせてもらうまでだ。俺がこのナイフに何かをすれば『主人(あるじ)』と認められ、神の骨の特性を自由に使えるようになるんだよな。あまり詳しくは知らないんだよ」

 

 トリエスター教授はナックルガードのある握りと柄を丹念に調べた。柄頭(つかがしら)を指先でつまみ、左に(ひね)る。蓋が外れた。中に直径一センチほどの赤い丸石(まるいし)がある。


「浄化して初めの血を(さず)けた者の、しもべとなる。これだな。この石に血を一垂(ひとた)らしか! だが、これはもう使役(しえき)の契約が済ませてある。石の色が赤く変わっているからな。浄化されたら白いはずだ。主人を失えば黒く(にご)る。君の血じゃないのか?」


「俺は何もしていない。プリンスのかな?」

 トリエスター教授はナイフの柄頭の蓋を閉め直してナイフを黒鞘に収め、テーブルに置いた。

「こいつは主以外は使えないナマクラだ。鉄より硬いが、リンゴを切るのがせいぜいだ。ほかの特性は、試せばわかる」

 晶斗がその柄を取った、直後、ナイフの鞘が弾け飛ぶ、と、トリエスター教授が椅子ごとひっくり返った。

 テーブルに、白く長い片刃の剣が突き出されていた。

 晶斗の手の柄から伸びた白銀の太刀だった。

 その白い剣の切っ先は、教授の顔のあった空間をみごとに(つらぬ)いていた。


 青い顔で起き上がったトリエスター教授は、椅子を立て直した。

「……きみは、わたしを殺す気か!」

 ぶるぶると体を震わせている。恐怖もあるだろうが怒りの方が強そうだ。

 晶斗は気まずそうに手元に視線を落とした。白いナイフは、ナックルガードも柄も長剣にふさわしい長さと太さになっている。

「わるかった。まさか本当に伸びるとは思わなかったんだ」

 見るまに長剣の刃が短く縮む。晶斗は床に落ちた鞘を、すばやく拾った。

 椅子に座り直したトリエスター教授はガウンの襟を直した。顔色は青いが、冷静さを取り戻したようだ。

「ナイフの主人は間違いなく君だ。浄化済みのものを手にして、怪我でもしたか」

「覚えがないな」

「だとしたら、方法まではわからないが、大公殿下の仕業だろう。直接会う機会があれば訊いてみるんだな」

「……そうだな。明日、また考えよう」

 晶斗はソファで眠るユニスを見に来た。いつまでも、じっと眺めている。

 

 乙女の寝顔をそんなに見ないで欲しいな――とユニスは困惑していたが、透視が途切れないままに、いつしか意識が眠ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ