表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルーンゴースト  作者: ゆめあき千路


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/81

029:宝珠と帰還者

「すごいわ。自分じゃ絶対、予約できない特別な個室にただで乗れるなんて」

 ホテルのスイートルームのようだ。ソファやテーブル、ミニバーのコーナーに専用トイレとシャワー室もある。

 ユニスが入ろうとしたら、晶斗は片脚で壁を蹴り、通せんぼした。


「ちょっと待った! 先に俺のトランクを出してくれ」


 開け放ったドアの前で、左手の黒い腕輪(バングル)の甲を室内に向ける。手首装着型の探査機(スキヤナー)だ。

「ただほど高い物はない、て言うしな。……よし、異常なし。入っていいぞ」

 中に入ると、晶斗は足下にトランクを置き、ドアをぴったり締めて鍵をかけた。

「個室でさいわいだ。トイレもあるし、守護聖都に着くまで絶対に出るなよ」

「どうして?」

「用心のためだ。さっきのヤツらだってラディウス狙いかもしれないだろ」


 探査機では足りないのか、晶斗は室内をざっと点検して回った。

 ユニスはあちこち見て回ってから、ソファに弾みをつけて座った。

「さっきは何を調べたの?」

「トラップほか、盗聴器や、人体に影響を与える可能性のあるあらゆる電子機器と、シェイン仕様の機器があるかどうかだよ」

「ふうん、護衛戦闘士ってそういうこともするんだ」


「また呪いの指輪みたいな特別室だったら、どうする?」


 晶斗はじろりと横目をくれた。

 ソファに深々と背中を預けていたユニスは、しゃきっと背筋を伸ばした。

「でも、まさかプリンスが……」

「もっと用心しろよ。さっきの大騒ぎを忘れたのか。ああいった連中は、お宝が町を出たくらいじゃ、あきらめないぞ」

 晶斗はトランクをソファ横のテーブルに置き、ユニスの向かい側に座った。


 ユニスは右手首を軽く上下に一振りした。

 見えない理律のポケットから、ラディウスをつかみ出す。ひょいと上向けた手の上に、淡い金色の珠が光っている。透き通った中心には、赤金(せつきん)の炎めいた光が、生き物の鼓動のようにちらついていた。


「これにどんな価値があるのかしら?」

 

「俺も、実物を見るのは初めてだが、遺跡(サイト)の出土品の中でも超レアものらしいな。東邦郡には、軍の博物館に一つだけ、最高機密扱いで保管されているって話だ」

 遺跡という迷宮の中の、さらなる不可解な空間『迷図』にある宝珠。そこから取り去れば迷宮は崩壊する。遺跡にとって貴重な(かなめ)には違いない。


 ユニスは右肩口に珠を投げた。珠は理律のポケットに隠され、手が(から)になる。

「そうよね。さっきの人たちも、すごく怪しいわよね。偶然乗ったこの列車で晶斗をスカウトしようとしたのよね。ラディウスのことは何も言わなかったけど」

「あっちは護衛戦闘士の勧誘だろう。トリエスター教授も言ってたように、俺の噂が広まっただけだ」

「ふーん、晶斗の噂ね」

 ユニスはにんまりして繰り返した。


「その噂の『帰還者』って、本当は、どんな意味があるの?」


 晶斗は不意を突かれたらしく、軽くのけぞった。


 気まずい沈黙が降りた。

 ユニスは訊いたのを後悔し始めた。謝ろうかしら、と悩み始めた頃に、晶斗がやっと重い口を開いた。


「帰還者は、遺跡と強い縁ができるらしい。苦労して探さなくても、帰還者の前に遺跡が現れるそうだ。それも、お宝の見つけやすいタイプがね」

 晶斗はやや前屈みになり、指先を組み合わせた。


 ユニスは答えてもらえたことにホッとして、ソファにもたれて腕組みした。

「晶斗は生きた遺跡探知機ってわけ。晶斗自身がすごいお宝よね。なのに、なんでさっきの人たちは勧誘をあきらめたの?」

「俺は、君というシェイナーと組んでいるからだ。護衛戦闘士の仕事は、いったん契約したら、完了まで他の仕事はできない。雇い主の命をあずかる仕事だ。信頼関係が大事だからな。契約を途中で解除できるのは、雇い主だけだ」

「本当にそれだけ?」

「ああ」

 晶斗がうなずく。

 そう言われると、ユニスにも思い当たる節はある。

「だから、町で追いかけられていた時も、わたしじゃなくて、晶斗の方へ行った人がいたのね。わたしの方は、ラディウス以外だと、町に滞在中に毎日デートしろとか言って、付きまとってきた変な人たちしか混じっていなかったし……」


 晶斗は目と口をあんぐりと開けた。


「お前…………今まで、そんな危ない橋を渡って来たのか…………」


 晶斗は、言葉に出してはそれ以上言わなかったが、目つきが恐ろしく怒っているようで、ユニスは首をすくめた。

「だって、一人だったから、しょうがないでしょ。逃げるのは自信あるし、晶斗を雇った後は……周りが静かになったなー、と、安心したけど」

 ユニスの告白に、晶斗はがっくりと肩を落とし、両手で顔を覆った。

「なによ、その反応は」

 ユニスがむくれると、晶斗は下を向いたままで顔から手をはずした。その表情から察するに、笑っていたらしいが、

「いや…………動くなよ」

 ユニスは頭を動かさずに、晶斗の視線の先を追った。

 晶斗が鍵を掛けたはずの、廊下へ出るドアが細く開いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ