028:理律列車
メタルブルーの特別列車『アルタイル』は、最新型の理律系マシンだ。
車輪の無い列車は、機関車と七両の客車で編成されている。地面に敷かれた列車用理律線路の上を、三十センチから一メートルくらいの高さで飛翔し、普通列車なら一週間かかる距離を、二四時間で走り抜ける。
地表との接触が無いのでほとんど揺れないため、乗客は快適な列車の旅ができるのだ。
「シャールーン帝国の列車は、みんな車輪なしの理律仕様車なのか。東邦郡じゃタイヤ付きが半分だぜ」
晶斗が感心しながら、切符と車体番号を確認している。特別席は機関車の次の一番目だ。
乗り込んだのは最後尾だったので、ユニスは進行方向を指差した。
「あっちね。シャールーンでも車輪付きはあるわよ。ほとんどの乗り物はリバーシブルな構造なの。無い方が揺れなくて速いから、収納してあるのよ」
タイヤ付きの乗り物も、それなりの利便性がある。歪みと理紋が溢れる土地をシェインで調律されたシャールーン帝国では、守護理紋に干渉しない構造の道具の方が、使いやすい場所もあるのだ。歪みの多い遺跡地帯でタイヤのある乗り物が多かったのは、理紋に干渉されないからである。
「東邦郡では、シェイン系マシンは、金持ち用か、特殊車両だけなんだよ」
晶斗が先に立って車両から車両へ移動した。
そして、三両目に移動したときだった。
「あんた、知ってるぜ。東邦郡の天狼だろ」
体格のいい二人の男が、晶斗を呼び止めた。
二人とも黒髪を短く刈り込み、一人は三十代前後だ。もう一人は濃い色のサングラスを掛けているが、少し若い二十代後半に見える。男たちは使い込んだガードベストに装備を付けた、護衛戦闘士らしき格好だ。
「俺はラクス。こいつはラン。遺跡の研究財団で働いている。オレたちと仕事をしないか。最新の装備と機材付きだ。給料は相場の倍出す」
勧誘らしい。ラクスはチラリとユニスを見やり、軽く笑いかけた。もう一人のサングラスを掛けたランの方はむっつりと押し黙っている。
「今は彼女と契約してるんだ。縁があればまた……」
晶斗はあっさり断ろうとしたが、ラクスに遮られた。
「あんた、戻ったばかりの帰還者だってな。フリーでいる気なのか?」
「ああ。関係無いね」
晶斗はピシャリとはねつけた。
あまりに冷ややかな晶斗の態度に、ユニスの方が焦ったが、それが護衛戦闘士流の礼儀なのか、ラクスとランはうなずいて引き下がった。
ランの方は終始無愛想だったが、ラクスは「引き止めて悪かったな、お嬢ちゃん」とユニスに笑いかけてから、近くの座席に戻った。
「いいの? あんなふうに断って?」
「何が?」
「遺跡研究財団のお仕事よ。一介のシェイナーより、条件は良いと思うわ」
「今は君と契約中だ。契約満了まで他の仕事には付けない」
「護衛戦闘士の仁義ってやつ?」
「そういうこった。おっと、ここだな」
特別席は一番車両を丸ごと占める、二間続きの個室だ。
普通車両は一等も二等も座席だが、晶斗がドアを開けると、ベージュで統一された絨毯敷きの部屋があった。




