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ルーンゴースト  作者: ゆめあき千路


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19/81

018:遺跡情報誌

「ほんとうに、それだけか?」

 晶斗が凄むと、店主の喉がゴクッと鳴った。額を汗がツツッーと流れ落ちる。

「……ラッ、ラディウスだよ。あんたら、朝にあの三人組とやり合ったろ。目撃者が多かったからな」

 店主は壁から背中を剥がし、太い首をすくめた。

「あれでユニスちゃんが、とんでもないお宝を手に入れたってのが、ここらをたむろしていた一攫千金狙いの連中に広まったんだ。町にはいつにも増してお宝を手に入れようとするあぶない奴らがうろついてるぞ。護衛戦闘士のあんたが付いているから、誰も手を出せないでいるがね」

「じゃあ、やっぱり、マスターも、ラディウスがほしかったわけ?」

 横目で見ると、店主はベストの襟元をなおし、胸を張った。

「いやまあ、物がラディウスとわかったんで、高額商品と引き替えにしようとしたんだ。組織のボスの話も嘘じゃない。わしも仲介料はきちんといただくからね」

「最初からそう言えばいいのに。じゃ、とにかく新しいのを出してよ。いちばんいいやつね」

 いくら相手がプリンスでも、怪しい相手に借りを作る気は毛頭無いので、ラディウスが売れたらユニスが一括払いするとの条件だ。値段を気にせず装備をそろえたら、目を剥くような金額になったが、それでもラディウスの価格にすれば、百分の一以下だと店主は言う。

 精算が終わると、店主が恐る恐る口を開いた。

「そのー、ラディウスの件だが」

 晶斗が機器の説明書から、すわった眼を上げた。

「ほー、まだいうか、このおっさん」

 店主はいささか腰を引きつつも、晶斗へ新しいガードベストとブーツのサイズを確認するようにタグを示して、

「もうひとり、紹介できる人がいるんだが」

 ユニスは買取カウンターに置いていた蹄虫の化石を、ピンクの巾着に片付けた。

「この国なら貴族とかのコレクター関係かしら?」

堅気(かたぎ)なんだろうな。何者だ?」

 晶斗はその場で新しいブーツに履き替えた。膝下でベルトを留める砂漠用のロングタイプだ。デザインはよく似た軍用モデルだが、重さは旧型の半分だ。

 店主はカウンターの下から雑誌を出した。

「遺跡専門の学者だ。それも、遺跡の研究では大陸で右に出る者はいないという、ルーンゴースト学術院(アカデミア )のトリエスター教授だぞ」

 遺跡情報誌『サイト』の最新号。表紙の写真は、気難しそうな、贅肉の無い中年の男の顔だ。

「インタビューが載ってたわね。本人はシャールーンの上流貴族で、奥さんが皇族出身だっけ」

 三白眼の鋭い目に高い鼻、薄い唇。苦虫をかみつぶしたような表情で、斜めに見下ろすカメラ目線。いかにもエリート学者風のイヤミな雰囲気が漂う。

 ユニスから雑誌を受け取った晶斗は、パラパラとページをめくり、突然、とまどったふうに雑誌を顔から遠ざけ、パシンと閉じ、ポイと放り出した。

「俺は知らん」

 ユニスと店主は不思議そうに晶斗を見た。

「護衛戦闘士なのに、この雑誌を知らないの? この十年間、毎年ベストセラーで、遺跡に入る人間なら必ず読むという、業界一の情報誌よ」

東邦郡(オリエント)にはなかった」

「大陸共通の全国紙だよ。確かぜんぶ同じ体裁で売っているはずだがね」

 店主は目を細め、鼻メガネに手をかけた。

「さっきから気になっていたんだが、この兄さんの顔な、どーこーかで、見たことがあると思うんだよなー……」

 店主はカウンターに乗り出した。

 晶斗が迷惑そうに顔をそむける。

 首をかしげる店主に、ユニスはちょっと意地悪くとぼけてみせた。

「あら、やっぱり。じつは有名なんだそうよ。保安局で引っかからなかったから、指名手配じゃないのはわかってるんだけどね」

 店主は、溜め息をついて鼻メガネをはずし、ハンカチで丁寧にぬぐった。

「いや、確かに見た覚えはあるぞ、うん。兄さん、東邦郡の護衛戦闘士なんだよな。この雑誌に載ったことがあるかい?」

「俺は知らないんだッ」

 にべもなく吐き捨て、プイと背を向けると、店の入り口へ大股に歩きだした。

 ユニスと店主は虚を突かれたが、扉の前で、ユニスが晶斗を止めた。

「急にどうしたの? どこへ行くのよ?」

「保安局事務所」

 冷たい返事に、ユニスは晶斗の、頬のこけた横顔を(うかが)った。本来が端正なので厳しい表情になると、いきなり近寄り難くなる。

「用がある」

 晶斗が乱暴に押し開けたドアが勢いよく戻り、ドアベルがガランガランと鳴り響いた。

 ユニスは呆然としたが、すぐ気を取り直し、ドアから顔を出して外を見た。

 晶斗は街道の角を曲がって行った。

 ユニスはドアを開けたままで、カウンターの品々を指差した。

「マスター、後で取りに来るから、それ置いといて。悪いんだけど、お店は、まだ閉めないでよね」

 店主は大きくうなずいた。

「ああ、わかった。大変だねえ、護衛戦闘士の彼氏を持つと」

 ドアを出かけたユニスは、ギンッと顔だけを振り向けた。苛烈な視線が、まっすぐに店主を射ぬく。

「カレシじゃないわよッ」

 カウンターの下に慌てて引っ込んだ店主を残し、ユニスは保安局に急いだ。

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