017:コレクター
遺跡コレクターにもいろいろある。
健全な方なら、国立研究所や博物館だ。
ただし、相場以上には払ってくれない。
これがマニアとなると、下は一般庶民から、上は闇のコレクターまで、大陸中に幅広く存在する。稀少な品物によっては、オークションに出せば一財産築ける可能性もあるのだ。
「そういうの、わたしも約一名ほど心当たりがあるけど。……まさか守護聖都に住んでる大富豪じゃないでしょうね」
「いや、とある組織のボスだ」
「ああ、よかった、皇族とか皇子様とか言われたら、どうしようかと思ったわ」
よし、目先の危険は回避できた。ユニスは胸を撫で下ろしたが、
「おいおい、聞いてりゃ、そっちの方が数段ヤバイぞ」
店内をうろちょろしていたはずの晶斗が、戻って来ていた。手に持った黒いブーツをカウンターにドカッと置く。膝下までカバーできる新品の砂漠用ブーツだ。おまけに、いつの間に運んだのか、カウンターに装備品もあった。暗色系の布製品からメタルカラーの小物類まで、うず高い小山に積んである。
晶斗は、丸いボタン型の金属を指で弾いて、その山の頂上に投げ上げた。
「護身用と、遺跡地帯にはいるための最低限度の装備一式だ。程度は中の上。中古品で値段も半額。精算してくれ」
「ええ、ちょっと待って。この中古品を買う気? こっちはまだ交渉中よ」
「アホか、お前は。組織とボスッてのが付いた時点で、素人が取引する相手じゃないぞ。怪しい政治家で我慢しろ。身元が確かで支払いも確実だ」
ユニスは振り向いた。その拍子に長い髪が風を切り、蹄虫の化石をカウンターから払い落としたので、慌てて拾い上げた。
「さっきはプリンスが怪しいから依頼は断ろうっ、て話をしてたんじゃないの。わたしたち、逃げる準備をしているのに」
「どっちにしろ、荷物を取りにホテルに戻れば、大公の近衛兵に確保されるんじゃないか。その件だけ交渉して、遺跡探索の依頼は断ればいい」
「それは、まあ、そうだけど」
「あの大公殿下、始めっから、お前のことをシェイナーだと知っていて近付いてきたんだ。俺たちが組んで何時間も経ってないのにな。すましたツラで話してたが、かなり念入りに俺たちのことを調査してるぞ。でなければ、あんな特殊ナイフと、シェイナーしか喜ばない報酬を提示できるかよ」
「うん。それは、わたしもそう思ってる。黙って逃げ出したら、本気で守護聖都にまで指名手配されそうよね。だって、条件が破格すぎるし…………」
ユニスは機器の小山の頂上を見上げた。なんだか古びたデザインの物ばかりだ。
晶斗の積み上げた品を店主は数えた。
「また結構な中古品ばかり選んだね。せめてもう少し新しいのにしたらどうだね?」
店主は細い目をいっそうすがめた。
「そりゃあ、少し前の――――中古品だろ?」
晶斗は手近の小さな機器を手に取って眺めた。
「わたし、機械は詳しくないけど、でもこれは、古すぎると思うわ。逃げる算段は別にして、遺跡グッズだけでもちゃんとそろえましょうよ」
ユニスの提案はまっとうだ。なのに晶斗は、機器の山の一点に目を据え、いっそう考え込んでいる。
「ユニスちゃんの言う通りだ。いっそ、ぜーんぶ新しいのにすればいいじゃないか。ちょうど聖都で開発されたばかりの最新モデルが一式あるんだよ。代金は後でいいから、持って行けばい。どうだい」
店主は好々爺の笑顔を貼り付け、首をコクコクと上下させた。
「わあ、マスター、優しい! ありがと……」
と、礼を言って手を出したユニスの眼前に、ぬっと晶斗の腕が横に伸びて視界をふさいだ。
「おいおい、ツケの利くサイトショップなんて聞いたことが無いぞ。怪しいぜ、オッサン。で、俺たちの前にだれが来たのかな。依頼人はその組織か?」
晶斗の威嚇に、店主の目がぎょっと丸くなる。
「い、いや、わしはその……」
急に汗をかいてあたふたする店主に、晶斗はたたみかけた。
「朝から盗掘団に保安局の事情聴取に、遺跡マニアの三連発だ。最後のトドメが組織のボスだぁ? どう聞いても、俺たちをカモろうとするタヌキ親父の手口じゃないか。さあ、やけに親切な理由をはいてもらおうか。依頼主は誰だッ?」
晶斗はカウンターに拳を叩きつけた。
その衝撃でカウンターに積んであった機器の山が総崩れになり、店主は「わあッ!」と一瞬で後ろの壁に背中を張り付けた。
「ななな、なにを言うか、わしは善良な商人だッ。お得意様の可愛い娘にサービスして何が悪いことがあるッ」
「お得意様って誰のことだ。ユニスがここに来てからまだ一ヶ月経っていないぞ」
「き、君らは代金をきちんと払うだろうが。この商売は信用第一なんだぞ」
「初対面の護衛戦闘士相手にツケてくれる店なんて、大陸中探したってあるかよ。サイトショップは現金払いが原則だ。あんたも店も生臭い埃まみれじゃないか……清廉潔白なら――――保安局に、とある組織との裏取引があるって密告ってもかまわないよな~?」
晶斗がニヤニヤすると、
「さっき大公殿下のお付きの軍人が来て伝言を残した。ユニスちゃんと護衛戦闘士が来たら好きなだけ購入させるように、請求書は殿下に送るようにと」
店主はあっさり口を割った。よほど後ろ暗い商売をしているらしい。




