014:依頼と報酬
ホテルの最上階では、特別室の扉を、帯剣した従者二人が両側から大きく開けてくれた。
地味なお仕着せ姿だが、フェルゴモア皇家の近衛兵だ。
ユニスと晶斗は豪華な応接間に通され、赤い緞子張りのソファに座った。
プリンスはユニスの正面に座ると、すぐに、新しい遺跡調査隊のプロジェクトを準備している、と切り出した。
「遺跡調査隊のメンバーを集めていたら、保安局があなた方を教えてくれたんです」
プリンスの合図で、執事が、高さと幅が十五センチ、長さ三十センチほどの長方形の箱を持ってきてテーブルに置いて下がった。
ユニスは箱を眺めた。お茶も出ないし、お茶菓子ではなさそうだ。
「あんた、政府のトップだろ。遺跡の発掘なら直轄の学術院でいくらでも融通が利くだろうに」
晶斗がぶっきらぼうに言い放った。
だが、プリンスは晶斗の無礼さは気にならないようだった。
「政府も学術院も実利主義でしてね。私は『コルセニー』の墓を探しています」
プリンスは晶斗の無礼さは気にならないようだ。
「コルセニー? どこかで聞いたような…………」
聞き返す晶斗には、ユニスが答えた。
「シャールーン帝国の神話に出てくる神様の名前よ。イーシャとコルセニー、フェルゴウンの三神が、ルーンゴースト大陸を作ったという伝説があるの」
「ああ、大陸創世記の神話だったな」
「しかし、コルセニーの伝説には、お墓の話はなかったのではありませんか?」
慎重に記憶にある知識を検索してから、ユニスは質問を返した。
ユニスが知る限り、コルセニーという神は、神話伝承にその名前だけしか出てこない。プリンスの理由は、新しい遺跡を探すきっかけとしては非常に珍しいものだ。
「よくご存じだ。墓所に関する記述は、公式文書には一切ありません。大陸創世記の三柱の神は皇室の祖とされるフェルゴウンを除けば、抽象的な存在として伝わっています」
プリンスの表情は真剣で、崇高な趣さえあった。その美貌ゆえに、国民の支持率が現皇帝よりも高い、帝国ナンバー1のアイドルだ。雑誌や映像で見慣れた貌だが、生身の迫力は想像をはるかに越えている。
ユニスは心臓がドキドキした。
「あの、それで、具体的にはわたしたちは何をす……」
「で、根拠のない墓探しをする理由は何だ?」
ユニスの質問はぶっきらぼうに晶斗に遮られた。ユニスは笑顔をプリンスに向けたままで、晶斗の左足をすばやく踏んづけた。晶斗は顔をしかめたが、何も言わなかった。
「コルセニーの墓があるというのは、私の立てた仮説です。太古、この世界に神々がいたと立証するためのね。東邦郡に伝わる神話は細部が異なっていますが、根源は同じです。このルーンゴースト大陸全土の創世記ですから」
プリンスは晶斗へ顔を向けた。
「その遺跡の捜索に、わたしたちを雇うと?」
ユニスと晶斗は、ちらりと目線を交わした。
新しい遺跡探しは、理律使と護衛戦闘士にはありふれた依頼だが、
「雲を掴むような話だな。金と時間がかかるぞ。あんた個人の道楽でできるのか?」
「期間は半月。基本報酬は一億ゴウエル。成功報酬はその十倍になります」
ユニスは目を丸くした。隣で晶斗が息を呑む音が聞こえた。
通常、遺跡地帯で新しい遺跡を探索する期間は一ヶ月くらいだ。その際は、必ずシェイナーと護衛戦闘士を含む十人ほどのチームが組まれる。そういったチームの基本相場が、五~六千ゴウンだ。シャールーン帝国の首都の平均的な労働者の年収が三~四百ゴウンだから、年に一度、一ヶ月間だけそこそこの規模の遺跡調査チームに雇われれば、残り十一ヶ月は仕事をせずに暮らすこともできる。
ちなみにシャールーン帝国の通貨単位は、一千万以上でゴウンからゴウエルに変わる。それはシャールーン帝国に、一枚一千万ゴウエルの超高額紙幣が存在するからだ。
「十倍だと。本当に払えるのか?」
晶斗の声は震えを帯びていた。プリンスは冗談を言っているわけではないだろうが、ユニスと晶斗二人だけの報酬ならば、破格すぎる。庶民の生活なら、一生どころか、孫子の代まで遊んで暮らせる大金だ。
胡散臭げにプリンスを睨む晶斗の肘を、ユニスはちょんとつついた。
「なんだよ?」
「大公殿下はルーンゴーストで五指に入る大富豪なの。一億ゴウエルなんて、一ヶ月のお小遣いにもならないわ」
「あっ、そう……」
ガックリとうつむいた晶斗へ、大公はテーブルに置いていた箱の蓋を開けて差し出した。




