012:魔物狩人
刹那、鋼の打ち合う澄んだ音が響いた。
ユニスの目には、白銀の稲妻が、大地から天空へ駆け上ったかのように映った。
晶斗に刺さる直前、二本の短剣は空高く跳ね上がった。
銀の刃は太陽光に煌めきながら、落ちてきた。
「なに? 今のは、誰のシェイン?」
短剣の白い残像が、ユニスの目に焼き付いた。
スト、トン、と、二本の短剣が、晶斗のすぐ前の地面に突き刺さった。
「そこまでだ」
燻し銀を連想させる声だった。
ようやく立ったもじゃ髭と支えている男二人が、弾かれたように振り向いた。
まだ開かぬ店の壁に、白ずくめの長身の男がもたれている。幅広の日除け帽子、砂漠用コートとブーツ。左手に携える長剣には艶を消した銀の飾り。『魔物狩り』が好んで使う武器だ。迷宮にいた黒髪の狩人。目鼻立ちは鏡面加工の黒いレンズヴァイザーで鼻の下まで隠されている。この上なく端正な唇が、鋼の言葉を紡ぎ出した。
「その男は一流の護衛戦闘士だ。お前らでは相手にならんぞ」
「誰だ?」
晶斗が、かすかに頭を右へ動かした。ユニスへ、もっと退がっていろと合図している。ユニスは素直に従った。
飛来した短剣から晶斗を救ったのは間違いなくあの白い狩人だが、ユニス達の味方とは限らないのだ。
もじゃ髭は手下の支えを振り払った。口の端から流れる血をガードグローブの甲で拭っている。
「はッ、こいつが、一流だと。何を根拠に言いやがる。あんた、何様のつもりだ?」
もじゃ髭のこめかみに太い青筋が浮き出した。
白い狩人は唇の片端をつり上げた。
「知らないのか。そいつの顔をよく見ろ。東邦郡の天狼とは彼のことだ。お前たちも名前くらいは聞いたことがあるだろう」
「はあ? オリエントのシリウス~?」
もじゃ髭の両脇の二人が、気の抜けた声をそろえた。
「そういやさ……昔、東邦郡のほうにそんなのがいたっけ。護衛戦闘士の間でも、悪運強いので有名だったやつだよな」
すると、もう一人も、どこか腑に落ちないと言いたげながら、うなずいた。
「ああ、俺も、シリウスってのは、東邦郡で一番の称号だ、という噂は、聞いたことがあるんだが……でもよ、そうとう前の話じゃなかったかなあ?」
「おいおい、お前ら、何を言ってるんだ。あんな若造があのシリウスなわけないだろうが。簡単にだまされるんじゃねーよ。おい、あんた、どっちの味方なんだよ」
もじゃ髭が白い狩人を威嚇すると、
「迷宮では時間が歪む。そのくらいは知っているな」
白い狩人の言葉に、もじゃ髭は目をまん丸くし、つづいてきつく眉をしかめた。
「ああ、でも、ラディウスはあいつが持っているんだ。じゃあ、あんたが代わりに……」
「俺の仕事はケンカじゃない。雇い主の顔をつぶさないうちに宿へ帰れ」
その場の全員が白い狩人に気圧された。
もじゃ髭は青くなったり赤くなったりしている。
「し、しかし、ラディウスは……俺らのメンツはどうなる?」
「保安局で言い訳をしたいなら、好きにしろ」
白い狩人が身をひるがえした。
ガラガラと金属のこすれる音が通りに響いた。
近くの店のシャッターがつぎつぎと開いていく。通行人がやって来る。観光客、発掘家、町の商人、朝の散歩に出た住人たちだ。
「くそっ、おぼえてろっ!」
お決まりの科白を残し、三人はそそくさと立ち去った。道の反対側から二人の制服姿が駆けてくる。年長の保安官は二人に面識があった。
「なんだ、君らか。朝っぱなから、何があったんだ?」
「それは、あいつらが」
晶斗は白い狩人のいた方を指差した。しかし、三人組みは保安官を見るなり遁走したし、白い狩人がいた証拠も無い。
ユニスは晶斗の隣でささやいた。
「あの白い人は、そっちの店の陰に廻った処で気配が消えたわ。間違いなくシェイナーよ」
「どこへ行ったかわかるか」
「方角はわからないわ。でも、この町からは出ていないと思うわ」
保安局で、晶斗は、ユニスに雇われて町の観光名所に行ったら風体の悪い三人組に絡まれた、という簡単な説明をした。ユニスが迷図でラディウスを手に入れたことは、うまく省略してあった。
保安局から解放されて二人でホテルに戻ったら、時刻は昼をとうに過ぎていた。




